68 実家
夜の王宮の執務室。
そこのソファに腰掛け、国王となったクロードと、教皇となったアイゼンは色々と話し合っていた。
「魔人族領の侵攻については、昼には決定しましたが……さて、ここからは細かい所を詰めていきましょう」
主な内容は、魔人族領の侵攻についてだ。
侵攻を行うことを自体は決まったが、今回はその計画を、細かく組み立てていくらしい。
「さて、クローン兵を実際に目にして、考えは変わりましたか?」
「……正直最初は、リスクが高過ぎる気がした。けど実際に研究所を見させてもらって、クローン兵とも話してみたけど……あそこまで抑えられているなら、暴走リスクはかなり低そうだと思う」
「ええ、私も同感です。リスクはゼロとは言い切れませんが……四天王を殺すためには、割り切らなければならない」
アイゼンやクロードも、クローン兵が暴走するリスクについては承知していた。
ほぼ完全にアインからの支配を脱したとはいえ、完璧というものは、そう容易く作り出せるものではない。
「これまでの脳波測定の結果を見た感じ、暴走発生率は確実に低くなっている……なら、やろうか」
理論上は暴走確率が低くなっている。
クロードはその確率を信じることに決めた。
「それはよかった。アレが無いと、数が確保出来なかったからね。それで次は……」
クローン兵を戦闘に使用することは決定した。
だが今度の話題も、戦闘においては非常に重要な件だ。
「アルフを戦闘に投入するか、とか?」
「ええ、その通りです」
それは、アルフをどうするか。
戦闘力だけで言えば、アルフは先程のクローン兵を圧倒する。
クローン兵については、投入できるのは百体程度で、後期型になると全ステータス五万に到達しているものもある。
もしアルフがそのクローン兵全てと戦ったとしたらどうなるか。
アイゼンもクロードも、アルフが五秒以内に全て消し飛ばすと推測していた。
それほどまでに、アルフの戦力は凄まじく、人工的に作られたクローン兵よりも”戦術兵器“という言葉が似合うほどだ。
それほどの戦力であるが故に、戦いに投入するか否か、それが変わってくるだけで、とるべき戦術も大きく変わる。
「ただまぁ、あいつは参加しない気がするなぁ。俺のカンだけど」
とはいえクロードは、アルフは侵攻に参加してくれないと思っていた。
これまでの付き合いや経験から、本当になんとなくではあるらしいが。
「なんというか、あー……別にあいつ、魔人族に強い恨みを持ってる訳じゃないし。それに敵側にジェナがいるからなぁ……」
「ジェナ……ああ、四天王の一人ですね」
「俺達、あいつに色々と助けられたんだよ。特に俺なんか、一度死んだ所をあいつの手で蘇生させてもらった。そのこともあるし、それとジェナの戦闘力的にも、アルフはあいつと敵対したくないって思ってる気がする」
「……なるほど」
特にジェナの存在が大きいと、クロードは言う。
アルフが唯一勝つことのできなかった相手、それがジェナだ。
クロードが聞いた話だと、アルフは彼女に対してだけは、攻撃を当てることすらできなかったらしい。
加えて、色々と助けられた経験もある。
アルフはそのことを考え、あまり敵対したくないと思っているかもしれない。
そう、クロードは予想していた。
「とはいえ、勘は勘です。どうやら明日、アルフはミルと一緒に実家に行くみたいですし、クリスハートにこのことを伝えるよう言っておきましょう。では」
そうして話は終わり、アイゼンは部屋を出ていく。
「……相変わらず、教会の情報網はとんでもないねぇ」
彼が部屋を出て、扉が閉じるのと同時に、クロードはため息を吐いてそう呟いた。
◆◇◆◇
翌日、アルフはミルを連れて、久しぶりに実家に帰っていた。
西区の高級住宅街に位置する、大きな家の一つ。
アルフはその家のドアをノックする。
コンコンコン。
しばらくすると扉が開き、奥から使用人の一人が現れた。
「どちら様で……アルフ様、ミル様! どうぞ中へ! 当主様はリビングにおりますので!」
外にいたのがアルフとミルであることを確認すると、使用人は慌てて中へ入るように促すと、そそくさと去っていく。
二人は家に入ると、とりあえず父親のアルヴァンに会うため、彼がいるらしいリビングに向かう。
少し長めの廊下を歩く二人だが、ミルは少し緊張している様子だ。
一ヶ月に一回は顔を見せるようにしているのだが、こういった高そうな家は、普段いる場所とは雰囲気が違い過ぎて慣れないのだろう。
そうしてリビングへの扉を開けて入ると、そこには窓から庭を眺めるアルヴァンが立っていた。
「うん? おおアルフ! それもミルもか!」
扉の音に反応して顔を向けると、アルヴァンは二人に気が付き、寄ってくる。
アルヴァンは大層嬉しそうな笑みを浮かべ、二人の肩をバシバシと何度もたたく。
「一ヶ月ぶりくらいか? まぁとにかくゆっくりしていくといい。部屋はちゃんと用意してあるからな」
「あはは……ありがとう、父さん」
「えっと、ありがとうございます」
ミルだけでなくアルフも、なんだか遠慮がちに礼を言う。
「……そんなに遠慮しなくてもいいんだぞ? と言っても、奴隷になったんだから、そうなるのも無理はないか」
「ええ、まぁ……」
「でも俺は気にはしないさ。何せアルフは自慢の息子! ミルもその恋人だしな!」
そう言うと、今度は二人の頭を撫でる。
「だからもう一度言うが、今日はゆっくり休んでいくといい」
「……うん。ありがとう」
今度は、アルフは少し恥ずかしそうにそう言った。
◆◇◆◇
それから、二人は自分用の部屋を確認した。
アルフのは、以前あった場所と同じ位置にあり、内装もそこまで大きくは変わっていなかった。
変化があるとすれば、特にデスクやベッドといった家具がグレードアップしていたくらいだろう。
ミルの部屋については、まだまだスキルを得ていない子どもということもあり、少し女の子らしい雰囲気を残した部屋となっていた。
内装自体はアルフの部屋と大差ないが、色合いが可愛らしい感じになっていた。
とはいえミルは、基本自分の部屋を休むためには使わないのだが。
現に今、二人はアルフの部屋に集まっていた。
ミルはアルフの所に来ただけではあるが、アルフの方は、デスクに置かれた山のような手紙を見ていた。
「まさかここにも届いてるなんてなぁ」
「……確か、お見合いの手紙が届いてるって、そう言ってましたっけ?」
「多分言ってた……気がする」
二ヶ月前、久しぶりにアルヴァンと会った時に、そんな感じのことを言っていたような気がする。
が、アルフとミルはそんなことはあまり気にすることなく、興味本位で手紙を読んでみる。
アルフレッド・レクトール様へ
はじめに、私からのお手紙にお忙しい中ご興味をいただき、誠にありがとうございます。
今回は、貴方の恋人であるミルに関することで、お手紙を書かせていただきました。昨今、貴方様のご活躍により、世間では奴隷の立場改善の動きが強まっております。最近では、奴隷制を廃止しようとする動きも出てきているほどです。
そこで、貴方が飼っている奴隷であるミルを、私にお譲りしていただきたいのです。世間が、貴方のようなお方が奴隷を持っていると知れば、不利益になるかと思います。その不利益を、私が引き受けることで、貴方のお役に立ちたいのです。
もし貴方のようなお方が奴隷を持っていると知られれば、多くの人々に批判され、差別されることでしょう。そのようなことは、私にとっても心苦しいことです。ですので何卒、よろしくお願い申し上げます。
敬具
フランシス・ラセル
手紙を読み終えて数秒、アルフは固まっていた。
が、据わった目でその内容をもう一度見ると、アルフは無言で手紙を灰へと変えた。
「……ムカつくなぁ」
「え?」
「ああいや。ミルを寄越せって書いてたからさ」
送り主は、貴族の一人。
長々しく語られているが、要するに何も言いたいのかといえば『ミルを寄越せ。さもなくば悪評をばらまくぞ』といったものであった。
一応遠回しで書かれているとはいえ、アルフがそんなことに気付かないわけもなく、ただ苛立ちが募るだけだった。
「ご主人様は、私を捨てたり、しませんよね……?」
「そんなわけないだろ」
手紙の内容を知って不安になったのか、ミルは尋ねてくる。
意図しているのかは分からない、おそらく無意識ではあるのだが、アルフのことを見上げて、上目遣いで。
アルフはその背中を何度かさすってあげながら、そんなことはしないと、そう言った。
「……というか、なに、こんな手紙ばっか来てんの?」
この手紙もそうだが、他のもこんな不快な内容なのだろうか。
アルフは目を細くしながら、もう一枚手紙を取る。
アルフレッド・レクトール様へ
はじめに、私からのお手紙にお忙しい中ご興味をいただき、誠にありがとうございます。
今回は、貴方にお見合いの――
「はぁ」
お見合いという言葉が見えた瞬間に、アルフはその手紙を燃やし、灰へと変える。
「えっえっ? ご主人様、今度はどんな……」
「お見合いの話だ。そんなの受ける気はない」
アルフは再びため息を吐く。
別に自分に害があるわけでは無いが、拭いきれない不快感が、彼を苛立たせる。
どうするべきかと戸惑うミルだったが、ふとその目に、開きかけの手紙の一つが映る。
「……でもご主人様、こんな手紙もありましたよ?」
ミルはその手紙を手に取り、アルフに渡す。
「うん? これは……」
手紙は、これまでの二つと比べるととても短いものだった。
読むのに十秒もかからず、読み終えたアルフは、その手紙をゆっくりと、デスクに置いた。
「そうか……感謝してくれる人も、いるんだな」
その手紙には、街を救ってくれたこと、そしてこれまで何度も街を守ってくれたことへの感謝を述べる内容が書かれていた。
おそらく子どもが書いたからか、文字数は少なめだし、文字もあまり上手ではないが、それ以上に、その素直な感謝の想いが伝わってきた。
それに最後には、自分に憧れて騎士を目指すとまで書いてくれたのだ。
アルフにとっては、嬉しくないわけがなかった。
コンコンコン。
そんな風に届いていた手紙を見ていたら、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「誰ですか?」
アルフは扉を開ける。
そこには、兄のクリスハートがいた。
「……アルフ、久しぶりだな。帰ってきたのか」
「ああ、久しぶり。たまには顔を見せようかと思って」
「そうか」
それから数秒の沈黙の後、クリスハートは口を開く。
「……一つ、アルフに伝えておくことがある」
「伝えること?」
「ああ。お前ならどこかで聞いているかもしれないが、一週間後に新たに部隊を結成し、魔人族領への侵攻を開始する。国と教会は、お前に参加して欲しいとのことだ」
「なるほど……」
シャルルから聞いていた、魔人族領への侵攻。
アルフもそれに参加するようにと、そう言われた。
何も知らなかったのなら、ここですぐに頷いていたが、シャルルから聞いた情報があるので、それはできなかった。
「……新たな部隊を結成するって言ったけど、どんな感じ?」
まずは、新たな部隊について聞いてみる。
「”レプリカ“って知ってるか? いや、お前なら知っているはずだ。あそこの作った人造人間が主戦力となる予定だ」
「なるほど……それで魔王を殺しに行くと」
「いや、今回の目的は違う。魔王やその血縁の者は殺さず、それを守る四天王だけを殺し、魔王城を占領する計画だ」
これもシャルルから聞いた通りだった。
四天王を殺し、魔王城を占領する。
おそらくこの計画は、アインの封印をより強固にするために、教皇であるアイゼンが考えたのだろう。
しかし、そのための戦力に”レプリカ“の、アインの力が込められた成果物を利用するとなれば、話は別だ。
「お前一人いるだけで、戦略が変わる。だから協力してほしいらしい」
「……いいけど、条件がある」
「何だ?」
魔王城の占領自体は、アルフは良い考えだと思っていた。
だがその作戦に”レプリカ“の人造人間を使用するのは、あまりにリスクが高過ぎるとも考えていた。
故に彼は、ある一つの、とても大きな条件を課した。
「”レプリカ“の人造人間を一体も使わないように――」
そこまで言ったところで、クリスハートは割って入り、断言する。
「無理だ」
そしてさらに続ける。
「あの人造人間がいなければ、ジェナはどうする?」
クリスハートは、アルフの言葉を断らざるを得なかった。
あの人造人間がいなければ、四天王の中で最も強いであろうジェナを、殺せない可能性が高いからだ。
そもそもジェナに関する情報は、異常なほどに少ない。
遠征は何年も行われてきたが、これまでに彼女が魔王討伐隊との戦闘に参加してきた回数は、長い年月の中でたったの二回だけ。
しかもその時の様子は、アルフ以外は誰もその目で直接目にしていない。
故に戦闘力も測りかねる、といった状態なのだ。
「四天王を全員殺すには、ジェナを抑える必要がある。そしてそれが出来るのは、お前か人造人間――」
「いや、人造人間には無理だ」
アルフか人造人間でしか、ジェナは止められない。
クリスハートがそう言おうとしたところで、アルフは止めた。
「あいつはまだ、本気すら見せていない。あいつなら人造人間程度、百体いようが一秒もかからず殺せるはずだ」
「……はぁ」
そして、クリスハートはため息をつく。
「分かった。つまり参加しないってことだな」
「ああ。危険な計画に、参加するつもりはない」
「そうか。国王に報告しておく」
そうしてクリスハートは、扉を閉じてさっさと去っていった。
「……えっと、ご主人様? 断って大丈夫だったのですか?」
「大丈夫。というかアレは、断らなきゃならない話だった。あまりに危険過ぎる」
そう言いながら、アルフは靴を脱ぎ、ベッドに横になる。
「色々考えて疲れた……ちょっと寝る」
大あくびをしながら、アルフは言う。
するとミルも、その隣に横になる。
「じゃあ私も、一緒にいます」
そうして二人はしばらくの間、暖かな陽の光に当たりながら昼寝をするのであった。
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