幕間7 革命
王都では青空の下、多くの人々が英雄の帰還を喜んでいた。
そんな中、王都のどこかにある地下牢では、一人の男が、脳内に流れてくる映像を見て、笑みを浮かべていた。
「マジか……あいつ、やっちまったよ……! あんな化物を、倒しやがった……!」
男は、酷く興奮していた。
なんせアルフが、あの倒せるとも思えない巨大な化物を、完全に倒しきったのだから。
自分が牢屋に入れられていることも忘れて、男は興奮していた。
が、アルフの奇跡で壊れた街を修復していく、そんな映像が流れ出すと、脳内に流れるそれが少しずつ薄れていく。
そして、アルフがミルと手を繋いで歩き出したところで、映像は完全に消えた。
「……」
最初は余韻に浸っていた男だったが、しばらくすると、その余韻も消え去り、現実へと戻される。
「はぁ……」
大きく、男はため息を吐く。
夜になって眠り、そして目が覚めたら、気づいたらこの牢屋に入れられていた。
拘束こそされていないものの、両腕に嵌められた腕輪のせいか、魔法が使えない。
身体強化すらできないので、脱出する方法もなく、彼は一人でここにいるしかなかった。
食事については、運ばれてくるというか、気づいたら牢屋の中に出現するので、飢えることだけはなかったのは幸いか。
しかし二日か三日か、それくらい独りで閉じ込められていると、心が落ち込むというものだ。
そんな中、カタン、カタンと、足音が聞こえてくる。
おそらくは、男から見て鉄格子の先にある鉄扉の、その向こう側からだろう。
わずかに警戒して、男はそちらを睨む。
そして足音が止まると、鉄扉が開く。
「……ようやく見つけました。ご無事で何よりです」
現れたのは、豪奢な法衣を纏った、おそらくは教会所属の偉そうな人だった。
彼は牢屋に囚われた男を発見すると、ポケットから鍵を取り出して、牢の扉を開けた。
しかし、男はまだ動かない。
「……どうしましたか? 拘束はされていないようですし、動けるはずでは?」
「まずお前は誰だ? 何の目的で俺を助けた?」
むしろ、睨みつけてくる。
相当教会のことを嫌っているか、あるいは警戒しているのが見て取れる。
「私はアイゼン・フォートレス。一応、現在は枢機卿をしております」
「枢機卿……それで、何で助けた?」
「国王が密かにあなたを捕らえ、殺そうとしているという情報を聞いたもので。もちろん他にも理由はありますが、少々長くなりそうで……」
「……あー、分かったよ。一応は信用する」
助けたのにも理由があると、あくまで私利のために助けたと口にしたのを聞き、男はアイゼンについていくことに決めた。
そうして、二人は牢屋を出て、地下から脱出する。
上階への階段を上がりながら、アイゼンは事情を話した。
「それで、何で俺が国王に捕らえられたんだ?」
「簡潔に言うなら、あなたに王族の血が流れているからです」
「……は? 本当に言ってるのか?」
男は足を止める。
自分が王族の血を引いているという事実を受け止めきれない様子だ。
「ええ。国王はそれを恐れたのでしょうね。こうして捕らえて、色々終わった後に秘密裏に殺そうと考えていたみたいです」
「……なるほどなぁ。じゃあ、お前の目的は何だ? 何が理由で俺を助けた?」
そして男は、腹の中に何かを隠しているであろうアイゼンに問う。
「あなたに、新たな王になってもらいたいのです」
そして出てきた答えに、男は目を丸くする。
王族の血を引いているから、新たな王にしたいということなのだろうかと、考える。
「私は、この国を変えたいと思っている。国王や教皇はアルフレッドを嵌めて、奴隷に落とした。多くの貴族が、アルフレッドを殺すために、教会の組織である“キマイラ”に出資していた。英雄を私利私欲のために消そうとするその体制は、見過ごせない」
アルフレッドという言葉、そして彼と国の偉い人達との関係性。
そして、アルフを嵌めようとしたという、貴族や国王、教皇。
「……その体制を変えるために、俺を王にしたいわけか」
「そうです。これまで政治とは一切の関わりが無い……新国王は、そんな無垢な人でなければ、成り立たないでしょう」
「でもそこら辺の奴じゃダメだろ? それこそ、王族の血を引いてる人でなきゃ……」
「多くの貴族が反対する。だからこそ、あなたなのです」
話に納得したのか、男は再び足を動かし、階段を上がっていく。
その間にも、聞きたいことをいくつか尋ねていく。
「……でも、俺が王族の血を引いてるのが事実だとして、疑う人が出てくるんじゃ?」
仮に男が王族の血を引いていたとして、それを無条件で信用すると言う人は少ないだろう。
端から見ると、急に現れた人でしかないのだから。
「そこは問題ありません。アルフレッドに匿っていてもらっていたと、そう広めればいいのです」
「……アルフに、か。なるほどなぁ、これまでの関係に理由を後付けするってわけか」
「そうです。それにあなたが王になれば、アルフレッドとミル、二人を守ることができる」
「……そうか」
「どうです? 新たな王に、なっていただけますか?」
アイゼンは、男へ問う。
何とか隠そうとしているが、その顔は緊張がわずかに出てきているのか、わずかに強張っている。
そんな彼に対して、男は二つ返事で答えた。
「ああ、なってやるよ。新たな王に」
「……! 助かります」
アイゼンはわずかに目を丸めるも、すぐに元の表情に戻り、軽く頭を下げる。
が、その手は密かに握りしめており、嬉しさは隠しきれていない。
そうして男はアイゼンに連れられ、玉座の間へと入る。
騒動の影響もあり、今やそこには、それどころか王宮には誰もおらず、容易にたどり着くことができた。
「それでは、これからは頼みますよ――」
アイゼンは、男に、もはや誰のものでもない玉座に座らせ、彼に向けて言う。
「――新国王」
そしてその頭に、アイゼンは懐から取り出した王冠を載せた。
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