36 緊急出動
アルフ達は今日も今日とて、家の中でのんびりと過ごしていた。
外に、特に遠い場所へ行くのは危険が伴うので、三人で家の掃除をしたり、花屋でもらった種を植えたり、ミルの勉強を見たりと、家の中でできることを行っていた。
そんな平穏な生活が一週間ほど続いていたが、平穏は一つのノックによって崩れ去った。
ドンドンドン!
「ッ!?」
昼下がりに響く普段よりも大きなノック音、というかドアを叩く音に、ミルはビクッと震え、アルフの後ろに隠れる。
そもそも人が滅多にやって来ないこともあり、相当怯えているみたいだ。
「……ミル、ちょっと待ってて」
アルフは警戒しながら玄関へ向かい、扉を開ける。
そこには、シャルルがいた。
だがアルフが出てくるやいなや、彼は普段とは異なる真剣そうな表情で、アルフに情報を伝える。
「シャルル? 急に何が――」
「明日には“ネクロア”が壊滅する。何もしなければ、そこのリーダーであるダニエル・ヘクターも死ぬ」
「ッ!」
「行くなら今すぐだ。時間が無い」
「分かった……!」
ダニエル・ヘクターといえば、リリーの父親と思われる人物だ。
知り合いの父親であるとはいえ、アルフからしてみると赤の他人のため、死んでも死ななくても関係無いといえば関係無い。
だが、危機に瀕している、あるいは危機に陥りそうになっている人がいると知った以上、アルフは無視することができない。
そういう性格だから。
アルフはすぐに家の中へ戻ると、リビングにいるミルとリリーに言う。
「リリー、父親が見つかった! 明日には暗殺されるって情報も入ったから、今日のうちに救出するぞ!」
「えっ! う、うん!」
「ミルも、ここで一人待たせるわけにはいかない。行くぞ」
「はい、分かりました」
簡単に事情を説明すると、二人は二つ返事でついてきてくれることになったので、玄関の前に行く。
やはりと言うべきか、シャルルがちゃんと待ってくれていた。
「よし、準備はできたね? “ネクロア”の拠点までは、歩きでも一時間あれば到着する。行こう」
そうしてシャルルの案内で王都を出て、“ネクロア”の拠点であるセレイドという村へと向かうのであった。
◆◇◆◇
セレイドへ向かう途中の林の中。
走ればもう少し時間を短縮できるが、ミルの合わせているため歩いて進んでいる。
そんな中、リリーがふとした疑問を尋ねた。
「……どうして、パパは暗殺されそうになってるんですか?」
かなり急いでおり、アルフもシャルルも重要な情報だけに絞って伝えていたため、こういう疑問が出てきた。
「そういえば、あんまり詳しく話してなかったね。時間はあるし、知ってることは説明しておこうか」
歩きながら、シャルルは事情を説明する。
「まずリリーの父親が殺されそうな理由は……エリヤが原因らしい。なんでも、覚醒を起こしたからだとかなんとか」
「覚醒……」
聞き慣れない言葉はあったが、アルフは今までに集めた情報を元に推測する。
エリヤが覚醒、それが危険で、引き起こす大元の原因となった“ネクロア”を潰す。
そしてあの時出てきた化物と化したエリヤ、そこから推測すると……
「もしかして、古代魔法のことを言ってる?」
「いや、詳しいことは僕にも分からない。文脈的にそんな感じはするけど」
覚醒とは、古代魔法のこと。
この推理が正しければ、“ネクロア”は古代魔法を使える可能性のある存在を生み出しているから潰す、という思考で敵は行動しているのだろう。
「ちなみに敵は? 多分俺達が来たことを知れば、相手側も戦力を出してくると思うよ?」
「それは想定済みだ。現状で分かっている限りの相手の戦力は……“レプリカ”の作った人造人間が五体。あと数は分からないけど、“キマイラ”製のキメラ。あと潜在的な敵として村人三百人程度……ってところか」
「敵が多いなぁ。流石にキツい気が……」
「そこは対策してある。もう一人強い人を呼んでおいたから」
当たり前のように協会の秘密を握っているシャルル。
だが彼はスキルを使えば盗み聞きができるので、魔法を封じる場所や完全な密室でなければ、情報を簡単に抜き取れる。
これらを駆使して、色々と情報を回収したのだろう。
「……こういう情報って、どこから?」
だがとりあえず念のため、情報の出処を聞いておく。
気にしすぎかもしれないが、アルフとミルを取り巻くのは危険ばかりなので、警戒しておくに越したことはない。
「単純に自分で調べたのもあれば、他の人から教えてもらったのもある。例えば“ネクロア”が壊滅するって話はカトリエルから教えてもらったし、“キマイラ”の作ってるキメラとか、古代魔法についての情報はジェナから貰った」
「あー……というか、カトリエルさんと面識あったんだ」
「いや、実は今日初めて会ってさ。潜入調査でバレて大変なことになりそうだったから助けて、そこで情報交換した感じだ」
「そっか。また今度お礼しないとな……」
世間は案外狭いものだと、アルフは今の話で実感した。
危険を冒してまで調査してくれたからには、ちゃんとお礼をしなければならないだろう。
「……あと五分くらいで着く。念のためそろそろ警戒しておいた方がいい」
そんな風に軽く雑談をしながら、何も景色が変わらない林の中を歩いていると、急にシャルルがそう言った。
「……そういえば」
そういえば、どうやってここを知ったんだろうと、アルフは疑問に感じた。
「シャルルはどうやって“ネクロア”の拠点の場所を知ったの?」
「どうやってって言われてもなぁ……僕の場合、スキルのおかげで耳がかなり良いから。林の中で、地図にも何も無い場所って書かれてる場所なのに、何故か生活音が聞こえたから気になって調べた感じだね」
「そこが偶然って感じ?」
「そう」
だがシャルルもここを知ったのは、本当に偶然とのことだ。
彼のスキルである“音響”は、主に音に関する多くの魔法を扱えるようになる。
それを応用することで、広い範囲の音を正確に聞き分けることが可能なのだが、それにより妙な違和感を発見した。
林の奥の奥、地図にも何も記されていない場所にも関わらず、そこから人々の生活音が聞こえてきたのだ。
そこで興味本位でその場所へ向かってみてはじめて、セレイドという地図にも載っていない村を見つけたというわけだ。
「だから一応、村の人……いや、元は死体だから人と言っていいのか分からないけど、まぁ住人とは知り合いでさ。だからよそよそしい態度を取られるとか、そういうことは無いと思うよ」
「ふぅん……なら案外簡単に済みそう?」
「だと、いいけどね」
そうして話していると、林は開け、複数の建物が並び建つ村へと到着した。
大体が木造の民家のような建物なのだが、その中でも奥の方には、一際大きな石製の建物があった。
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