4話 初めての会話
「あらあら何てこと。わたしこんなつもりでは無かったのよ」
「あら、さきほどの・・・またお会いできるなんて思いませんでしたわ。不束者ではございますがこれからどうぞよろしくお願いいたします」
「…」
くじ引きの結果を手にマイナは困惑していた。寮の同居人は、先ほど新入生代表として見事な挨拶をこなした元老院議員令嬢のビブリア女史。
くじ引きの時確かにマイナはビブリアの事を一瞬思い浮かべた。だがまさか同部屋になるなんて思いもよらなかったのである。
彼女の思いがくじ引きの神に通じて導きがあったのだろうか、とにかくビブリア女史と共同で生活するなんて言う事は全く想定外であり丁寧に頭を下げるビブリアを前にマイナは何も言えず固まっていた。
同部屋の確率は2000人中たった2人であるにも関わらす何たる豪運であろう。現実味の無さからか、憧れの人と一緒になれてうれしいと言う気持ちよりもこれで人生の運をすべて使い果たしてしまったのでは無いだろうかという余計な心配がマイナをよぎった。
「あの~失礼ですがおふたりは302号室の方でいらっしゃるでしょうか?」
背後からの呼びかけに2人は振り向くとそこには新入生の一人がいた。
「さようでございます。あなたもわたくしのお仲間でいらっしゃるのね?」
「ええ、そういう事になりますわカーラさま。わたしノーナ・ラベオーと申します。これから3年間よろしくお願いします」
「あらあなた、わたくしの名前をご存じですの?」
「カーラさまの事を連邦で知らぬ者はございませんわ。それについさっき代表挨拶をなさっていたじゃありませんか」
ビブリアが自分の立場を理解していない事がよほどおかしかったのか、ノーナは笑いながら答えた。
「まあそうなのね。こちらはマイナ・メッサーラさんよ。会えて嬉しくってよラベオーさん、こちらこそよろしくお願いしますわ」
「よろしくラベオーさん。カーラさん…」
マイナは未だに放心状態で、ラベオーさんのことなどほとんど眼中に無かったが、とにかく3人は荷物を部屋に移動させ、小規模ではあるがそれぞれの引っ越しを完了させると早くも夕食の時間であるようだ。
食堂への移動中ビブリアとノーナの2人は互いに意気投合していたが、マイナは沈黙を貫き通して気まずい気分であった。初対面の人とラベオーさんはどうしてあんなに仲良くできるのだろう。
やがて夕食になったが、食事の仕方で育ちが分かるというのはどうやら確かなようである。ビブリアは身分に相応しい教育を受けているだろう。左手を使わずに食べ、咀嚼音を聞こえさせず口元さえ見せない徹底ぶりだ。ノーナもまともな躾を受けたからか一般的に無作法とされる行為は一切見られない。
初対面の仲間との初めての食事であるのだから、普通は作法に気を使うべきであろう。しかし予定が詰まっていて昼飯を食べる機会を逃していたマイナは、あまり作法に疎いのもあって構わずがっついた。
普通の人ならばここで交友を敬遠してしまいそうであるが、ビブリア女史は良くも悪くも普通ではなかったようである。無遠慮な行動が逆に功を奏することになった。
「まあ、よくお食べになること。お腹お空きになっていたのね。わたくしも朝からほとんど食べられなくって」
マイナのそれが見慣れないものであったのか、豪快な食べっぷりが気に入ったのかビブリアは驚きつつも感嘆の声を発し、マイナは食べながらそれに目だけ向けて返答をした。こうして2人の同居人としての会話は非常に奇妙な形で成立した。
「ちょっとメッサーラさん、もう少しお行儀よくしてはいただけないのかしら?」
「公の場ではないのだし、少しくらいよろしいのではなくって?わたくしさようなお方とお会いするのは初めてなのよ」
ノーナは見かけに違わず生真面目な性格なのだろう。マイナを諌めたが、もっとこの光景を見ていたいビブリアは笑いながらそれを止めた。
(マイナさんはもちろんのこと、ビブリアさんも相当な変人ね)
ノーナはそう思ったが、このようなきっかけであってもようやく3人で会話できたことに安堵している部分もあった。
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