第35話 海戦の始まり
「はげええええほんげろおおおおおはげえええええええ」
いきなりのハゲのハゲしくも痛々しい悲鳴。
だが、その周りは蒸発する海の水と火柱が大量に立っている。
「これがヘルムート兄さんがやったっていうの?」
「まあ、ハゲてもそれなりの貴族というところなんだろうけど、無理矢理シリアスにしても」
「イ、いや……そういうつもりでは無いと思うんですけど」
「まじめなところも好きだよ弟君」
「うるせええええええええええええええええええええええええええええええええんだよおおおおおおおおおおおおお!」
ヘルムートは遠く離れているのに聞こえるような大声を上げて、頭が落ち着いたのか、2隻の船をジッと見据えている。
――視線がヨゼフと合った。
――みつけた。
遠すぎるから、声は聞こえない。でも、口の動きが精霊眼でよく見える。
ヘルムートはヨゼフを見つけた。
背筋がゾッとした。
「燃やされる」
「大丈夫。絶対にお姉ちゃんにおまかせ……と言いたいけど、あなたの精霊眼は違うよ」
アウロラの言葉に両目の精霊眼がしくしくと痛む。だが、それは闘志の
「ピーー!」
火の鳥がヨゼフの肩に乗る。
ドンッ!
あちらの船の魔法大砲から、赤い球が放たれる。
「あれは燃える。ひとたまりも無いっ! おい、ヨゼフ大丈夫なのかよっ」
フェニがそんなことを言ってくる。
さっきまでならあわあわ言っていただろう。なのに、目の痛みが逆にヨゼフの意識を研ぎ澄ませる。
「お願いだ。守ってくれ」
火の鳥にお願いする。精霊眼はしくしくと痛むが、平気だ。
ただ、力が湧いてくる。
「ピーーーーーーー」
火の鳥が鳴く。ハウリングするように鳴き、大砲から飛ばされる球を爆発させる。
「爆発……しているのに、全然反動が来ない。どうして?」
「それは簡単。それほど、弟君の精霊眼は強い。でもね、まだまだまぁだ、強くなる。いつしか、私をお姉ちゃんから精霊契約する精霊とするまで――精霊眼の力。ヨゼフの力だよ」
アウロラのとても、寂しげな声。
ヨゼフはその声に気付くことが出来ない。
力の濁流に飲み込まれないよう精一杯にしているからだ。
(強い。兄さんは強い。強い強い強い)
心臓がどくどくする。
(怖い。でも――負けたら、みんな兄さんに殺される)
「海賊の船が来たぞー!」
男たちの声が聞こえる。
ここにきて、他の海賊の船も動き始め、接岸してこようとしている。
物理的に人が足りなさすぎる。
(これ、じゃあ、もう……)
「わたしが行きますっ」
モニカの紙の色が紫に染まる。
「ランドタートルさんの力、いきますよっ!」
接岸してきた海賊の橋げたに右足を叩きつけた瞬間、凍り付く。
「すごい……これなら」
「甘いってんだよ」
ヘルムートの声が頭上から迫る!
「モニカ!」
ヨゼフが気づいたときには両手に炎の拳の魔法をまとったヘルムートが迫る。
「こっのおっ!」
だが、モニカは負けない。今は無力じゃないから。
火の拳を受け止めた!
「なんだとぉっ!」
氷の精霊の拳が日の魔法を受け止め切った。
「いけるか?」
「あめええっていってんだ!」
ヘルムートはハゲた頭頂部を燃やし、船に火をつける。
「あああっ、火がくそっ、あたしは風の魔法しか使えない。無理か。でも、みずをどこからかっ」
フェニがそんなことを言っても、火の勢いは止まらない。
(どうする? どうする?)
ヨゼフが動揺した気持ちを出したとき、ふと、上空に水色の竜の姿が見えた。
「ウォータードラゴン! まだ残ってた!」
アウロラが大声で、叫んだ。
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