第34話 ヨゼフと髪の毛が追放された兄について
「しっかし、すげえな。これ。クラーケンが真っ二つ。俺たちの船に載せられるだけ載せて、食料にするけどさ。こんだけ綺麗に新鮮だと、生で食えそうだな」
「やめろよお前。腹壊すぞ」
「それよりもあのドラゴン何だったんだろうな」
「いつの間にか消えちまったけど」
という会話が海の男たちの間でされている。さっきまでは嵐とクラーケンに囲まれて死にそうだったはずなのに、脅威が消えた瞬間現金なものである。
最後の言葉にアウロラがため息をつき、辺りを見回しているのだが、何の成果も無いようだ。
「本当はもう少し探したい。アイツなら、この状態を何とかしてくれるかもしれないんだけど」
「本当なんですか。精霊……」
「まあ、見つからなければ後で何とかしようよ。弟君。今はこの人たちを何とかしないと」
とはいえ、負傷者もそれなり。食料もクラーケンだけじゃ、栄養失調で倒れてしまうかもしれない。早く帰らなければならないのだ。
そこに一隻の船が見えてきた。
「あれは? 何か、すごいでかいね。やばいやつ?」
アウロラが発見した船。それは助けかもしれないと一同を喜ばせるものだった。
「よかった。これで何とかなる」
ヨゼフたちが喜んでいると、船の船隊の姿が見えてきた。
どうも、魔法で強化された船が1隻と取り巻きの4隻の船。それなりの身分の船が一隻としっかりとした船4隻のかなりの大隊のように見えるが。
「最悪だな。くっ、殺されるか、投降するかってところだな」
「親父ぃ……折角、何とか拾った命とはいえ、一番体調が悪いんだから起きるなよ」
「いや、フェニ、拾えない命かもしれないから起き上がったんだ。あれは海賊船と、クッソ赤い、頭の悪そうなお貴族様の船だ」
ラルフは本調子とは言えないものの、言葉はしっかりとしている。
「え、あっ……赤い貴族。オトマイアーのドラ息子。ヘルムート=オトマイアー」
ヨゼフの兄であり、撃退したはずの貴族。
ここまで来て、邪魔をするのか、と。
「まあ、今のヨゼフ様なら、あんなヘルムートぷぷっ、ハゲなんて、どうってことも無いですよ。あんなハゲなんて、ハゲましてあげましょう」
モニカの言葉は割と辛辣だった。だが、それは真実であり、優秀な魔法使いであるヘルムートであったがゆえに、
「だああああああああああああああああああああああれがハゲだってええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
しっかりした船のへさきから、赤いつんつん頭のかつらをかぶったヘルムートの声が聞こえる。
「聞こえてしまったらしいですね。オハゲ様」
モニカは挑発をやめない。
ヨハンはドキドキしているのだが、何故か、ニコニコしているアウロラに口を手で覆われる。
「んぐっ(やめっ)、だ、だめっ」
ヨゼフが抵抗してもやんわり、アウロラの腕にからめとられる。
「どうしたんだ? ハゲ? 面白いことでもあるのか?」
「いや、親父いいんだ。モニカ、鬱憤はたまっているのはわかるけど、領主にその物言いは……」
「フェニ、どうせあのハゲの暴君はこちらの手柄を奪いに来たんでしょう。後ろの船、明らかに荒っぽい連中ばかり。海賊でしょうから――だから、ハーゲの領主は上からしか言えないのですかっ!」
「うるさいわっ! 爆裂しろ炎!」
海の水を蒸発させるほどの火柱が立つ。
ついでに、カツラも勢いで飛んで行って……。
「「「「「「ハゲてる。すっごいハゲてますね。うん。ハゲ」」」」」」
海賊やその他にもハゲをさらすことになってしまったヘルムート。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
涙とともに
「こ、これはどうすれば」
「もちろん、ヨゼフがやっつけて、ハゲをもっと、さらすのよ!!! とどめを刺すの! 最高よ!!!」
悪魔の精霊はここにいた。
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