第33話 遅いヘルムート君にハゲましの言葉を!

海上の船の上でヘルムートはカツラを直しながら、進んでいた。


ジャコモが手配した海賊を蹴った倒す。


「早くしろってんだボケ! すぐしろってんだよ馬鹿! 何やってんだよウスノロ! 風は魔法でもう少し上げれるだろ。俺の炎で燃やしつくしてやってもいいんだがなぁ! 風でそれで発生するかもしれないからな! だから、早くしろってんだ!」

 ヘルムートは慌てていた。


 部下がコケにされたこと。クラーケン討伐に出ているやつがいる。

 どちらとも、関わっているのがあのヨゼフ。あの役立たずの生活水魔法しか使えないヨゼフ。


「あいつが! ヨゼフのあいつがっ! 俺よりも超絶ッッッにいいいいい目立って、いることが許さない。俺をハゲにしたあいつがっっっだとおおおおおおおおおおおおお!」


 あと、「ハゲにされたヘルムート様を、とてもハゲましてあげましょう」の激励と見せかけた多くの落書きが大量に街の中にされているのもどうしようもない。

 今日出港しようとした旗艦である自分の船にもハゲと書かれていたのを見つけた。

 なのに、誰も報告をしてこない。

 おかしい。おかしすぎるだろ。違うだろ、報告して、そいつを焼き殺させろ。


 だが、報告が無かったことについて、何を意味しているのか。為政者の卵として、わからないほど、ヘルムートは馬鹿ではない。

 だから、子供じみたくこのことを認めたくないだけ。だから、沸騰する感情は一言だけだ。


「俺は人気が無いわけでもないし。ハゲでもない。ハゲしく人気が無いわけではないンだよくそう、なんでだよ、なんで、――ハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲハゲッッッ!! 違う違う違う違う!!! 俺は俺は俺は俺ぁあああああああああああ」


 一息でありながら、大量に駄々れた声は息が切れるまで、ずっと叫び続け、ヘルムートは一息つく。

 頭の中は沸騰したままだが、疲れたから息をついただけで――

 

「俺はなああああああああッ!!!!! ハゲジャアネエエエエエエエエエエエエエンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 と言いつつ、紙が最近生えてこないことを気にして、王都でも有名な薬師の育毛剤を求めている。

 求めているが、すぐには来ない。だから機嫌も悪いし、そこにもっと機嫌を悪くするやつがいるとなるともう、最悪である。終わっているのである。


「くそっがっ、そこの執事ッ。海賊の練度はどれくらいだ!」

「わかるわ――」

「わかるだろう? 俺と力を魔法である程度共有しているんだ。力でねじ伏せて、状況を分からせるくらいできるだろ。まあ、どうにかなるだろ。ほら、難破船とクラーケンが見えた。よし、やって」



 ――光の柱のようなものが見えて、クラーケンともども、モンスターが消えたのもそれと同時だった。


 ヘルムートは崩れ落ち、難破船の男たちが喜んでいる姿を歯軋りしながら見続けるしかなかった。




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