第21話 ヨゼフ、精霊界で力を試す

「これって、すごいことなんですか?」

 ヨゼフはランドタートルの力を感じながらも、どうも実感がわかないせいか、そんなことをつぶやいた。


「大丈夫。私が太鼓判を押しちゃう」

 でっかい胸を張って、右手でたたきながら、アウロラがそんなことを言う。

 うん、おっきい。顔が赤くなる。

 でも、モニカのおぱん――


「何か? ありましたか」

 非常にニコリとしているのに、モニカの髪の毛がなぜか、冷たい色に変化しようにしていて、身の危険を感じた。


「何でもありません。ハイ」

 ぶるぶるぶるぶるとヨゼフの体の震えが止まらない。顎がカタカタなっているのも何故だろう。

 ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶると、首の否定もものすごい勢いで、抜けてしまいそうなほど勢いが早すぎる。


 だが、ヨゼフにやましいことはないのだ。絶対に。

 ただただただた、先ほどの滝行の影響が残りまくりらしい。ヨゼフのとてもとても強い本心では無いのだ。無いのだよ。多分、恐らく。


「うむ。エロ心に正直なものは――「燃やしますよ」ウオッホン、近くにもっと大きな滝があるから、そこで試せばいい」

 ランドタートルはモニカの視線に耐え切れず、目をそらしながらも頑張って、知覚の滝を案内する。



※※※


 小さな砦を飲み込みそうなほどの落差のある滝。2日ほどいた滝とは違い、ヨゼフの小さな体を流して、下流の川で覚えれ死んでしまいそうなほどの勢いに見える。


「これくらい、私のヨゼフなら、今のヨゼフならすぐにできる――凍らせることがね」


「それくらい、ランドタートルさんの力は強いということですか?」

「見えないねえ。エロ亀にしか見えない爺さん亀。よぼよぼしていて、無理そうだけど」

 ヨゼフも同意見なのだが、やるのは自分なのだ。


(駄目なら、別で何とかしてみるんだ)


 と心の中で呟いて、巨大な滝壺の下に立つ。


「想像せよ。わしの中の氷の心を。紫の光を捉えろ。わしは本来、土を象徴する名を持っているが、色々あって無、性質が苦手な氷へと変わってしまった。土の力はまだ、お前には扱えないが、氷は使えるじゃろう――ああ、弱いとは思うな。上位の精霊から授かったとても強いものじゃ。強力な土の力を封じるために頂いた強い――ああ、とても強い力じゃ」


 ランドタートルの言葉は素直にヨゼフに突き刺さり、目の色がブラウンから、金色へと簡単に変わった。

 寒気がした。恐ろしく、自分を殺そうとする殺意のように思える何か。

 あの父ジャコモや、兄たちにも向けられたさげすまされた目。


(嫌だ。何でこんな目に僕があわなくちゃ、駄目だ。負けたら駄目だ)

 自分を鼓舞するヨゼフ。


「何と美しい精霊眼じゃろうか。だからこそ、恐ろしく強く、折れてしまいそうな弱さ」


「大丈夫。モニカ、黒エルフのあなたなら、少し支えてあげるから」

 モニカは頷いた。

 そして、ヨゼフを後ろから抱いて、


「大丈夫。わたしがいますし、優しい光があなたに降り注いでいます」


 アウロラから注がれる優しい光は上位の精霊の光。優しい光。ヨゼフを守ってくれる光。

 ヨゼフはごくりとつばを飲み込む。


「わしの力、とくと使え」


 ランドタートルの氷の力がヨゼフの体を満たし、寒さが押し寄せてくる。だが、優しく温かい光とモニカの体温が寒さを吸って。


「凍れ」

 

 ヨゼフの両目が金色に光る。


 両手からあふれた冷気は我慢を忘れた吹雪のように、滝の水を凍らせる。


 流れる滝にどんどんどんどんどんどん、冷気が集まり、あっという間に滝の流れを冷気で止める。


 凍った。永久凍土にも思えるほどに、凍った。


「なんと、これは? 川の上流から、下流、どれ迄凍らせたんじゃ?」


 あたりが冷気で酷いことになっていた。これなら、


「ワイバーンなんてすぐですか?」

 ヨゼフはランドタートルに問う。


「何を言っておる! ワイバーンなんて低俗なものは100体は凍らすことが出来るわ!」


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