第17話 ヨゼフのいないオトマイアー家の悲劇

 オトマイアーの筆頭老執事は、兵士たちの訓練風景を見ていた。ほぼぼれするほどの練度の魔法部隊が。


「ああああああれ? どうしたんだ俺たち」

 オトマイアー家の兵士たちは何故か、首をかしげていた。ここは魔力の強い兵士たちを効率よく訓練させて、盛況な魔術隊を編成していくはずだった……その、はずだ。


 だが、ここ最近どうも、調子がおかしいのだ。頭がすっきりしないというか、調子が全体的に悪い。他の家と比べても遜色のない力を持っていると思われるのだが、何かが違うのだ。

 老執事はそのことを聞いた。昔は魔法部隊にもいたので見に来ていたのだが、どうやら、調子が悪いのが今回もらしい。


「ああっ、落ちてしまった。チッ、アイツ最近までは魔法を失敗するなんてなかったのにな。失敗して、穴を作っちまったよ」

 ある魔法使いの男が言う。氷の魔法を使おうとしたはずなのに、どうしてか、失敗して、わけのわからない爆発が起きて、穴ができてしまう。

 そこに落ちて、怪我をする。

 まあ、魔法の失敗なんてほとんどしない筈だが、無いわけではないのだが、こうも連発すると、違和感があるのだ。


 その姿を見ているオトマイアー家の老筆頭執事は思う。いつからだろうか。

 はて、あの3男ヨゼフを追放してからだろうか。


「まあ、どうにかなるだろう。今までが調子が良すぎたのだ。うーん、腰が痛いな。ヨゼフの水を飲むと元気になるんだが、まあな」


 本当なら考えるべき違和感。だが、老執事の頭はそれほどに弱っていたのだ。今まで、ヨゼフに頼りすぎて、すべてがうまくいっていたはずなのだ。


 老執事もそろそろ、引退の時期。部下もいるし、3人いる息子も育ってきている。ヘルムードが失敗したらしいが、その配下の執事の息子は大丈夫だ。ヘルムードがどれだけ、短気だろうが、魔法だけはうまいし、それなりに領地の経営はうまくやっているから。

 まあ、どうにでもなるだろう。

 それに娘も結婚している。


 そこに、とんでもない勢いで早馬がやってきた。乗ってきている男は老執事子飼いの召使。

 その顔がとんでもなく青くなっており、まずいことが起きていることは察することが出来るが、個々はオトマイアー家の本宅だ。

 ある程度は堂々としておく必要が有る。それをあのような酷い顔をして。



「何だ、なんだ、藪から棒に。うるさい」


 老執事はうっとおしそうに早馬の男を邪険にしようとするが――



「ヘルムードが、あなたの次男を燃やしました」

「は? おかしいことを申すな! そんなわけがない! あるわけがないだろ!」


「嘘なんか言うもんかよ! 燃やしたよ! 俺は見たよ。燃やされて何もわからない死体とあんたからもらった懐時計をな! ほらこれだ」


 渡された懐時計を渡された瞬間、老執事は崩れ落ちてしまった。


「は?」

 その懐時計は次男に渡した良い時計の筈。それが焦げ付いて。焦げ付いて?


「もやされた? もやされただと?」

 視界がぐにゃぐにゃしている。ああ、これは夢だな。わかる夢だ。


「気持ちはわかります。だが、真実だ。アイツは頭が悪くて、立ち回りを失敗したんだ。そうだな、ヨゼフの水、あれを飲むとすごい頭がすっきりする。そうしたら、大丈夫だったんじゃないのか?」

 子飼いの召使の言葉は残酷だった。

 

「ああ、そうか。ヨゼフの水、あれがあれば、もう少しあいつは頭が良かったかもしれないのになあ」

 老執事は足から崩れ落ち、気を失った。


 翌日、息子の無残な姿をその後見て、1週間寝込む羽目になってしまった。


※※※


「あの執事が倒れた? ああ、ヘルムードが燃やしたのか。まあ、仕方ない。三男がいたはずだ。あいつなら、もう少しうまくやれるだろう。まあ、少しの金はくれてやろう」


 執事の一報を聞いたジャコモ=オトマイアーはただ、冷たく執務室で判断を下すだけだった。それが何になるのだ、と。

 オトマイアー家は精強なり。3男という来たならなしいものを追放して、更なる飛躍を遂げるのだ。

 

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