第15話 おねえちゃんきゅんきゅんする

負けるか。まけるもんか。

そんなことをヨゼフは思ったことが無かった。


 ただ、オトマイアー家の人間たちはヨゼフに毎回いうのだ。蔑んだ目で。


「奴隷のように水を出せ、きれいにしろ。おお、綺麗になった。なんて気持ちいい、ああ次だな。ここもやってくれ。ハッハッハッ!」

「自分たちののどを潤せ。疲れたしぃ」

「ああ、うまいうまい。そうだ、その方が元気になれる。生活魔法の水しか使えないお前には、お似合いだ」



「――使ってくれるだけありがとうだろ」

 そして、思い出したヘルムードの言葉は悲しかった。


「――お前は生きていることに価値は無いが、一応井戸に水を取りに行くことが無いくらいの力はある価値はあるだろうな」


 最後の言葉はジャコモの言葉。


 二人ともに言われた言葉に対して、ヨゼフは自分の価値を見出すことが出来なかったがゆえに、力なく、うなづくしなかった。


 モニカが守ってくれたから、何とか耐えてきた。


 でも、アネッタはおばさんと言われているものの、お姉さんしかヨゼフには見えない。体一つで、坂場兼宿屋を守っている、どこかで聞いたことがある姉御。


 だが、娘であるフェニもある意味姉のような人だったが、彼女はモニカと同じくらいの少女でしかない。


 弟が姉を守れないなんてことはないだろう。


 だから、ヨゼフは強くなりたいと思ったのだ。

 今まで一度も思ったことが無いことなのに、その気持ちがあふれてきている。どうしてだ。


「いいよ。ヨゼフ。まだ、12歳だ。フェニもよくやってくれた。店をあいつらが無茶苦茶にしちゃ困るからな」

 アネッタのあきらめた言葉。フェニは黙りながら、唇をしめている。



「アウロラ……お姉ちゃんは強いんでしょ。契約はできないの? 僕はすごい精霊術士なんでしょ」


 ヨゼフの言葉にアウロラは首を振る。

「まだ無理だよ。力が弱すぎる。多分パーンって、ヨゼフの体が弾けちゃうよ。耐えきれない。風船みたいに膨らんで、ウグググググっていって、パーン。それは私には耐えられない。こうやって、可愛い可愛い弟君を抱きたい」


 と言われて、ヨゼフはアウロラに抱かれてしまうが、自分の両手で突き放す。


「それでも強くなりたいんだ。僕は。どうしても。お姉ちゃん」


――きゅん。きゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。きゅんきゅん。はぁと。


 何故か、そんな音がアウロラから聞こえた。わけがわからない。


「お姉ちゃん力たかまるよぉおおおおおおおおお! うおっほおおおおおおお! かっこいい弟君最高すぎる。ヤッフー! やっほー! YA●OO!!!」

 近所迷惑な声。だが、頼りになる声。


「お姉ちゃんにまっかせっなさい! 強くしてあげるからねっ!」


 それはとても頼もしく、何か嫌な予感がしたのも否定できなかったのは何故だろうか。


 

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