第14話 強くなりたい

「おい、ひょろがき? んんんんん? これはある種のやつには売れそうな顔をしたガキ。女じゃないよな。男。でも、うーん。この球児の格好は女の子。うん、考えたら、最高にいいな!」

 巨漢の顔が非常に白い歯を出して、ニコッとしているのが、気持ち悪い。

 ヨゼフはドン引きして、後ろに引き下がる。


「なにやってんだい、下がってな。そこのゲリンとかいう外道をあーしはぶっ飛ばなきゃならんだのだ。あ、それよりも罰ゲーム出くわされた腐ったメシでゲリンしたことも懲りてないのか? あああああああ?」


「うっせえ。ブス! 年増! アネッタとかいいながら、すでにババアだろ。ババアがアネッタ。これは笑えるなあ!」


 うん、これはまずい。相当まずい。名前で相当えぐいことを言いまくって、二人とも血が上っている。

 誰かが出てこないと血みどろになるとヨゼフは悟った。


「や、やめてください」

 小さな声のモニカ。これでは駄目だ。


「いえええええいやれえええええいいいいい!」

周りの大人が止めることはない。ただ、火の鳥とヨゼフだけが何かができると思う。だから、まずは火の鳥が二人の間に火を吐いて。


 ヨゼフは「できるよね」と火の鳥を見る。しかし、火の鳥は何故か首を振る。まだ、お前は弱いといっているようで。悔しくて、涙が出そうで。


「やめてよ! こんなところで! 出て言ってよ! 母さんもワイバーンがいるよ!」


 フェニが言った言葉に「チッ」とアネッタが引き下がる。

 そして、フェニは給仕服のポケットから、金貨を2枚、ゲリンに握らせる。


「チッ、また来るわ。興ざめだわハッ」

 巨漢は言葉とは裏腹に。にやりと笑みを浮かべながらも酒場の外へ出ていく。

 すると、


「GYAOOOOOOOOOOOOOOO!」


 という獣の叫び声が聞こえる。

 小さいころ、ヨゼフが聞いたことがある声。

 そして、風圧が酒場に入り込み、歩いていく音が聞こえた。


「ワイバーンって、本当だったんだ」


 飛んではいなかった。だが、翼の風圧は感じた。恐らくは脅しに来ただけだった。


(今の自分は止められなかった。僕の体は動かなかった)


 だから、火の鳥は諦めろと止めたのだ。なんて、自分は無力なんだ、とヨゼフは独り言をつぶやく。


「漁師の父さんが帰ってくれば。クラーケンが退治できれば。あいつらのわけのわからない借金だとか、税金だとか、何とかしてやれるのに」

 ブルブルとフェニの両腕は震えていた。悔しそうに。涙を出しそうで。



「――アイツ、ぶっつぶしていい?」


 そこにはいつの間にか帰ってきた怖い顔をしたアウロラがいた。明らかにこの人ならゲリンなんて何とかしてしまうだろう。だが、そうすると何かが、違うような気がして。


 だから、ヨゼフは無言で彼女を止める。


「ヨゼフ様のことを見捨てないでください」

 モニカも口添えしてくれた。


 だが、アウロラは首を振る。

「見捨てないよ。だから、アイツをぶっ殺して。幸せに」

 

(モニカには止めることはできない。僕は無力だった。結局、守られるだけの子供。それはもう)


「僕を強くしてください。そしたら、僕は幸せになります。弱いのはもう――嫌です」


「本当に?」


 ヨゼフはうなづく。


「僕は――強くなりたい」

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