第13話 仕事はゆっくり覚えていけばいいんだよ

(お姉ちゃんはブチ切れモードなのです)

 体全体の光がどす黒い。アウロラ。

(どうしてかわかりますかね?)

 暗い笑みを浮かべるアウロラ。お酒を何故か飲んでいる。

(あははははは。うふふふふ。いひひひひ)

 すべてを投げ出して、世界を滅ぼしそうな光の精霊がここに爆誕――



 という白昼夢をヨゼフが見たような気がしたのは何故だろうか。

 

「ヨゼフ様、顔が真っ青ではなくて、真っ白になっていますが、大丈夫ですか」

「大丈夫大丈夫。男の子なんだから、それくらい大丈夫だから」


 モニカが自分のことを心配してくれるが、フェニはケラケラと笑っている。


「そんな、酷い。ほれ。洗い物は自分の魔法で出すんじゃないぞ。元気にやれよ」

「ぴーっ、ぴーっ(フレー!フレー)」

 とまあ、フェニはヨゼフの尻を叩きながら、皿洗いの姿を応援している。

 火の鳥はフェニの頭の上で、どこからか用意してきた旗を起用に羽で持って、振りかざしている。


「まあ、仕事はできているから。大丈夫。慣れてきたから。生活魔法の水さえ出さなければ、問題は無いってことが良く分かったし」


「そうそう。仕事は覚えていけばいい。ゆっくり。君のペースで覚えていけばいい。だろ。モニカ」

「え、あっ、まあ、そうですね」


 モニカはフェニの言葉を否定はしない。ただ、優しくヨゼフの一生懸命な姿を見ている。フェニは言葉はきついが、やることはそんなに悪くない。

 ヨゼフはそれを感じている。


(この人はとてもやさしいな。モニカも優しかったけど、苦労させちゃって、本当にごめんなさい)


 と考えてしまうのはヨゼフの悪い思考なのだろう。ヨゼフは首を振り、ただ、皿を洗い続ける。


 酒場での注文はつまみをとりあえず提供して、モニカやフェニが出していく。アネッタも、と思うが、自分はババアだから、厨房で無双さ、なんてことをつぶやいて出てこない。


 確かにそれなりに繫盛はしているらしい。ただ、どうも魚料理のボリュームが少しない感じがする。折角の港町なのに。


「しっかし、ヘルムートだっけ。あいつが領主になってから、海賊が出てきてね。漁に行けないんだよな。クラーケンも出るからな」


「んなことよりもヘルムートがハゲになって、外に出れなくなったって聞いたぞ」

「ああ、聞いた聞いた。なんか狩りで魔法に失敗して、つるっぱげになったらしい。性格も見栄っ張りであれだからいいザマだな、だな! ハッハッハッ!」


 そんなおっさんたちの噂話が聞こえる。どうやら、余りよくない話やヨゼフのした話が色々と混じっている。


 その話の中に、フェニも何か気持ちがあるのか、下唇をかんで、右手をぎゅっと握る。ヨゼフは言葉を出そうと思ったが、彼女の思いつめた表情に何もいうことが出来ない。

 モニカは何かを知っているのか、ジッとフェニを見つめている


「父さん……早く帰ってこいよ。クラーケンなんて、うめえけど、帰ってこなけりゃ意味ないからさ」


「おい、アネッタはいるか? 金はどこだ? 税金はらってねえだろ」

 そこにやってきたのはガラの悪い巨漢の姿だった。


「うっせえな。まだ、時間は先だろ」

 巨漢に負けないほどの悪漢のような顔をしたアネッタが厨房から姿を現した。

 手には包丁も持っていて、剣呑な雰囲気が漂う。


「黙れ。この土地はすげえいい場所だって、ヘルムードが言うからな! 早く金をもらわねえと代価に似合わないんだよ」

 だが、巨漢も負けてはいられない。


「いいぞ! メイドババアVSマリンフェルトのクソ税務官との対決だぜ! 悪いのは税務官だろうがな! 地上げとか、クソだろうげえええ」


 という男たちの汚い声が聞こえた。


「あわあわわわわわわ」


 ヨゼフが慌てる。しかし、そこに火の鳥がやってきて、アネッタを守ろうとする。


「そうだ、守らなくちゃ。アネッタさんがあぶない」

 ヨゼフが動いた。

 

 

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