第6話 港町マリンフェルト
瞼がどうも、重いとヨゼフは思った。疲れているのだろう。昨日も生活魔法の水を大量に出したのだ。体が弱いのだから倒れてしまうのはいつも通りだ。
ああ、モニカにまたかばってもらったなあ。迷惑をかけてはいけないと思うのだけれども、自分ができることをやろうとして、無理をしてしまうのは自分の悪いことであり、美点でもあるとヨゼフは思っている。
だから、瞼が重いほど疲れていることも多いわけではないが少ないということではないのだが、どうもおかしい。
変なにおいがした。とはいえ、不快というわけではない。
「お魚の匂い? あと」
きれいな女性の子声が聞こえる。鈴を転がすようなきれいなソプラノの声。
「ぐへへへへへ。利発な美少年。これは私の弟君。私のもの。愛しているわ。キスだってしてあげたいくらい。でも、でもだめよ。キスよりもギューッと抱きしめてあげるの。だって、私はお姉ちゃん。お姉ちゃん力を試されているの。キスは精神的な関係ではなく性的な関係なのよ。それは駄目駄目駄目駄目なのよ。やってしまえば姉と弟という関係は無くなってしまう。いけない。いけない恋愛はご法度。私は光の精霊であり処女であるべきなの。愛は愛でもドロドロとした歪んだ恋愛ではなく純愛。ピュアピュアピュアと3回も書いて純愛なのよ。それを裏切ることは私の存在意義を消してしまうことなの。ほらほら、私の純愛で純真無垢な愛にあふれまくったこころちゃんはどうしてこんなことを考えちゃうのかな。どす黒い感情ではない。これはピンク色かあ。とても、気持ちいい感情かもしれない。あああでもでも、いけないかな。うん、てへ☆ぺろろろんっ、ああああああああ、何か古いネタな気がしてきたわ。お姉ちゃんなのに、おばさんになっちゃう。由々しき自体よね。魂が拒否するの。ううううん、どうでもいいわ。魂より、私の精神が求めるの。ヨゼフという弟を。愛に飢えた熱いパトスが私をんーあ~ん~ぶちゅー」
声だけがいいのに、内容が色々と終わっている。
股をくねくねさせている音がしていて、すっごい卑猥な感じがする。身の危険を感じるレベルだ。
ああそうだ、昨日は変なお姉ちゃんが現れて、大変な目に起きなきゃ――とおもったが、舌を器用にうねうねさせている金髪のお姉ちゃんがいる。
体全体がもう、かなりうねうねしていて、物理法則は、すでにどこかに放り投げてしまったようだ。
うん、ヨゼフは夢を見ているらしい。12歳なのに、何でこんな卑猥な夢を見ているのだろうか。見てはいけない夢。僕にそんな記憶があってはいけない。
あれば、確実に悪夢でしかない。
「ぴぃーっぴーいーっ(やめろ! ヨゼフの情操教育に悪すぎる!)」
火の鳥の可愛い声が癒しだ。しかも、とても常識的なことを言っている。これは夢じゃない。
「何をしているんですか。変態自称お姉ちゃん」
氷点下のような声音のモニカの声が聞こえた。
「ぴーっ、ぴーっ(ド変態! ド変態!)」
「あっ、いやっ、そのっ、これは、あれって、いや、そのねぇ、うーん。介抱をしていたのよ。かわいいヨゼフの寝姿を見ながら、介抱をしてあげて評価を上げようかと思っていましたうん」
本音駄々洩れである。ねっとり、言い訳をしようとしても頭が煩悩に振り切れてしまい、頭がおかしくなっているらしいアウロラさんである。
しかし、目覚めてしまったからには仕方ないヨゼフはとぉーっても、気が利いている12歳児なので、たった今目覚めたように体を起こした。
「ここは?」
ヨゼフが疲れた目をこすりながら、辺りを見回すと窓があった。
そこは鳥、白い、本でしか見たことが無い海鳥が大量に飛んでおり、その下には青い水たまりと船。
石畳の床にレンガ造りの家々も見える。その先の水たまりだろうから、海だろうか。船があるから港町だろうと12歳ながらヨゼフは察した。
「ようこそ、マリエンフェルトへ」
モニカが窓を開ける。そこは初めての匂い、磯の匂いのする港町の風景だった。
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