第5話 最強の精霊術士になるんだ

 ヨゼフが狙われる。

 あぶないっ! とヨゼフが主王が動けない。

 ゴブリンたちを倒すために羽を飛ばしたのだ。隙ができてしまったのだ。


 しかし、アウロラは悠然として、モニカの背中をたたいた。


「ほれっ、なんとかするのっ! 黒エルフ! 私の力を少し貸すからやっちゃえっ!」


 と、アウロラがモニカの頭を触ると彼女の髪が金色に染まった。


「これは?」

「それがあなたの力であり、ヨゼフを守るお姉ちゃん力!」


「お姉ちゃん力はよくわかりませんが、力が湧きますッ! はああっ!」


 カカカカカカカッ!

 

大人一人が入る長方形の光の壁。

 1枚。

 2枚。

 3枚。

 4枚。

 5枚。

 6枚。

 7枚。

 8枚。


 彼女が広げた手から発生した壁は8枚。しかし、もろいのか、そんな長い時間は展開できず、雷により、潰れていく。


「これって、モニカ?」

 力が抜けていたヨゼフの周りに光の壁が集まり、炸裂する雷からすべてを守り切る。壁。大量の壁。


 ヨゼフはその壁の美しさに目を瞠らせ、優しい力に包まれたのがわかった。



「これこそ、精霊闘士としての一つの力。精霊と心を交わし、力を行使するのではなく、精霊から力を借りて、その力を展開する闘士としての力! まだまだまだ、彼女は弱い。だから、強い弟君ヨゼフがやることは!!! なんだっ!」


 アウロラの言葉は厳しい。本当は自分を助けてくれる力を彼女は持っているはずなのに、敢えて直接手を出さない。

 でも、それはヨゼフたちが弱いから。アウロラがいない時にやられたときに、身を守るのは自分だけだから!


(応えるしかない。この力はモニカの力。自分は今、守られている)


 おお何ということだ。ひどいことだ。優しいのではない。

 だが、ヨゼフは力強い精霊力を持っている。


「ヨゼフはできる! 自慢の弟!」

 アウロラは目を開き、叫ぶ。


「火の鳥ちゃん。やってよ! 僕の力でいっぱいっ!!!!!!!」

 叫んだ。心の中から、体の底から叫んだ。

 ヨゼフの体から、搾り取られる力は大きな大きな炎柱となり、火の鳥を真っ赤な大鷹のような姿にさせた。


 悠然として力強く、煌びやかに神聖な力を持っている。決して、何かを滅ぼすだけの力ではない。

 燃え盛った焔は気を避け、ゴブリンだけを燃やす。

 例外はない。ゴブリンシャーマンも燃やし尽くしていく。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 出てくるはゴブリンシャーマンたちの死体。そして、最後に出てきたのは、ゴブリンの巨体。この森のゴブリンの王様とも思える威容。

 

 粗末な鉄のブーツ。錆びた鉄の胸当てをつけただけのゴブリンだが、5メートルを超える体はオーガにも引けを取らない。

 そして、その手には粗末とはいえ、魔力を詰め込んだ黒い魔剣。


「あ、あれはゴブリンの変異種。ゴブリンロード。ゴブリンキングほどではありませんが、ゴブリンでもかなりの強さを持つ、駄目ですっにげま」

 モニカの弱弱しい声。だが、すでに遅いのだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 生半可な冒険者の身をすくませるウォークライ戦いの叫びとともに、ヨゼフを敵として、ゴブリンロードは認識しているのだ。


「僕は守る! 不幸になるような人たちから守りたい」

 モニカが耐えてくれている。

 彼女は12歳になるまで、魔法が使えないのに、自分を守ってくれていた。彼女のような人たちを守りたい。不幸な人たちを守りたい。どうしたら、ヨゼフは不幸な人たちを守ることが出来るだ。


「そのためには何になりたい?」


「最強の魔法使いになりたい!」


「なれない! 魔法とヨゼフは非常に相性が悪い!」


「だったら、何になれるの?」


「最強の精霊術士になれる。私をいつか、使えるようになりなさい、私を甘えさせるくらい、強くなるの!」


「だったら、なるんだ。僕は最強精霊術士になる」

「なれる! 私が甘やかして甘やかして、ほめちゃうくらいに強いし、魅かれちゃうんだ。だから、最強精霊術士にしてあげちゃう!」


 アウロラはそう言って、ヨゼフのおでこにキスをする。

「わわわっ、何をあ、れっ? 体が熱い」


 熱い。体がポカポカしてくる。お風呂に入ったみたい。

 違う、これは昔サウナに入ったみたい。

 違う。これは昔おとぎ話で聞いた火山のマグマみたいに。



 ―――――――胸が熱い。

 

 「――っあ」


 声にならない声。12歳には耐えられない力。でも、ヨゼフは耐えられると思った。


「12歳の誕生日プレゼント。だからね――まだ、私とは契約ができないけれど」


 火の鳥が両翼を広げ、赤い火のようなビームを放ち、


 ゴブリンロードはボロボロの魔剣から、黒い闇の魔法を周りを覆うほど、闇の力を爆発させた。普通なら、殺される力。

 だが、


―――――――負けない。


 ヨゼフの自信はそんなもの、どうでもいい。

 家族に追放された。いらないものにされた。でも、追放されても新しい力と僕を見ている人はいる。だから、ヨゼフは叫ぶ。



「僕は最強精霊術士になるんだああああああああああああ!」




 闇の魔法はゴブリンロードを貫き、闇をすべて薙ぎ払ったのだ。

 夜空に一筋の光が伸び、空が真昼のようになったのをヨゼフは見て、


「あれ? 真っ暗?」


 ヨゼフの意識はぷっつりと消えた。

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