第18話 ゆらぎ期の女の美
女として生まれて半世紀、若い頃には考えられなかった事態が起きている。
元来、私は結構肌が綺麗でファンデーションを塗らなくても、日焼け止めとBBクリーム位で十分だった。
しかしふと鏡を見ると思わず「誰??」と思うほど老けている女性がうつっている。
びっくりした私はそのまま近所の資生堂販売店に駆け込んだ。
私はアレルギー体質なので、化粧品はどれでもいいという訳では無い。
資生堂ではdプログラムという敏感肌専用のラインナップがある。
これは以前から化粧水と乳液だけは使っていた。
若い頃ならいざ知らず、もうこれだけでは足りないのだろう。
私は化粧自体をあまりしない為、化粧品には無知であった。
若い子は肌が綺麗なのに更にコントロールカラーや美容液成分の入ったファンデーションを使っている。
恐ろしいほどの美意識だ。
それなのに化粧もする。
下手をするとこれは絵画なのでは?という子にも会う。
もったいないなぁと思ってしまうのはもう私がその輝きを失いつつあるからだろう。
温泉などに行くと一緒にエレベーターに20代の子と乗ったりする。
その子の肌の美しいこと、うなじや耳の裏など白くてピカピカだ。
本当にまぶしく見える。
髪は何もしなくてもつやつやで、若い子を見る私はまさに変態の中年オヤジと変わらなかった。
特別若いと思われたいとは思わない。
別に大地真央になりたいわけではないのだ。
ただあのくすみのない輝きが羨ましいのだろう。
かつては当たり前のように自分も持っていたものだ。
資生堂販売店では一番高いクリームは66000円だった。
その値段、化粧品の値段なの??と思った。
手の甲に付けると、そこだけが若返る。
確かハリウッド映画でメリルストリープが主役を演じた「永遠に美しく」のワンシーンのようだった。
その下のクリームは38000円位のもので、66000円のものよりは固めのテクスチャーで肌に馴染ませるのに時間がかかる。
皮膚は摩擦がダメなら美を追求するなら66000円のクリームが良いらしい。
が、私は66000円のクリームを即決するほどお大臣ではない。
しかし焦燥感に駆られていた私は「永遠に美しく」効果もあり、38000円のクリームをもらった。
もちろん夫には内緒だ。
「無駄な抵抗だよ。」とぴしゃりと言われるのがわかっていたからだ。
しかし3日ほど経つと、夫に「なんか若くなったんじゃない??」と言われた。
気を良くした私は美容液も買ってみた。
顔色が明るくなり、「最近の化粧品は凄いね~」と感心しきりだった。
凝り性の私は今話題のリキッドファンデーションも買ってみた。
話題のアイシャドウやリップも買い、この歳になってフルメイクの練習をした。
しかし私はブルべウィンタータイプなので、割と顔がはっきりしている。
アイラインを引いて、アイシャドウをしてチークをし、リップをするともうバブリーな顔になる。
夫にその度に感想をきくと「それで表は出ない方がいいよ、逆に老けてるよ」と言われる。
どうやらこの年頃はばっちりメイクはしてはいけないらしい。
しみもばっちり隠さなくてもナチュラル感や透明感がある方が若々しく見えるとの事だった。
インスタやYouTubeで勉強をし、朝、出社すると夫がいるのだがそこで今日のメイクの点数が決まる。
「今日はなんだか化粧が厚いねぇ・・・」と言われた場合は落第点。
「おっ今日はいいんじゃない?」と言われたときは合格。
そんな感じで一か月経った。
しばらく熱心にメイクをし、お高いクリームなどを使っていたのだが、なんだか顔がむずがゆくなってきた。
アレルギー体質であるため、今まで使ったことのない栄養がたっぷり入った化粧品に反応したのだろう。
つまり肌がびっくりしていたのかもしれない。
そのクリームと美容液は肌の調子がいい時限定になり、もとの化粧水乳液に美容液と日焼け止め位になった。
肌も栄養過多になってはいけないらしい。
ちょうど老いを感じた頃に、食事も見直した。
カロリーよりも栄養を重視し、白米、漬物、味噌汁、焼き魚や豆腐、卵など和食を心掛けた。
こちらも体質にあっていたせいか、思わぬ効果があった。
腹をグーグー鳴らし、空腹に耐えて行ったダイエットより自然に体重が落ちてきた。
入らないパンツが入るようになったり、知人に会うと「痩せた?」と聞かれるようになった。
更年期のダイエットは本当に難しい。
バランスが難しいのだ。
食事を減らすだけでは体重は落ちない。
かといっても運動だけでも落ちない。
無理にダイエットをすると一気に老けてしまう。
栄養を撮りながら、エレベーターやエスカレーターではなく階段を使うなど、なるべく日常で運動量を増やすのだ。
夜にストレッチを行うだけでも違う。
筋肉は若い頃のしなやかさが無くなり、ストレッチをしないと柔らかくならないのだ。
一気には体重は落ちないが、見た目が若々しくなり、それなりに体重もゆるく落ちてくるので、私には合っていたのかもしれない。
服選びも重要となった。
カジュアルスタイルが似合わなくなり、愕然とした。
分かりやすくいうとTシャツ一枚でいられなくなったのだ。
ふと昔読んだ林真理子さんのエッセイを思い出した。
私が30代の頃に読んでいたのだから、彼女はちょうど私くらいの年齢だったはず。
自分に輝きが足りなくなるから、たとえお化粧をしても、パールやシルクのスカーフでつやを足してあげるとよいと書いてあったと思う。
まさにそれを肌でひしひしと感じる年齢になった。
顔周りに何か輝きがないとぼやんとするのだ。
歳を取るってこういうことなんだ・・・と実感した。
若い頃には気付かなかった輝きは、失って初めてわかる切ない気づきだった。
だからおばちゃんは声を大にして言いたい。
若い子は化粧をしなくても十分綺麗なんだ!
そのうち否が応でも化粧をしなくては外に出れない歳がくる。
今は自分の輝きを楽しんで欲しいと!
朝は忙しい。
それなのに化粧に時間がかかる。
歳を取ると、金もかかるが、時間もかかる。
その上に体力も無くなる。
なんだか修行僧のような毎日だ。
普通に生きていくという事の難しさを実感する時期がゆらぎ期なのかもしれない。
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