第12話  アレルギー

私はアレルギー体質である。

アレルギーとは自己免疫が過剰に反応し炎症を起こす状態らしい。

花粉症はもちろん、腎臓病などにもこのアレルギー体質は関係していて、厄介な事になることもあるのだ。

ある日、突然手のひらや指の先に水疱ができた。

潰すと水状のようなものがでてくる。

ちょうどグランドピアノを買った頃で、ピアノ熱も最高潮のときであった。

主婦のよくある手湿疹かと最初は思ったが一向に良くならない。

それどころか酷くなる一方で、ほとんどの指にバンソコを貼る生活になってしまった。

ピアノを練習していても鍵盤に血がつくこともしばしばあった。

ピアノの先生がそれに気づき、いい皮膚科があるから教えてあげると言われた。

完全予約制の皮膚科で電話をかけてみた。すると直接来てもいいが2時間ほど待つ事になるかも、でも予約と予約の隙間ができたときに診てくれるという。

早くなんとかしたい私には2時間待つことなど全く苦にならない。

早速、電車に飛び乗りその皮膚科へと向かった。

受付を済ますと1時間ほどで呼ばれた。

先生は女性の方ではっきりとモノを言う方であった。

手を見せると「口の中を見せて」と言われた。

口?と思いながら開けると「やはりね、歯科金属アレルギーだと思うわよ。」と言われた。

アレルギーというのは突然発症する。

アレルゲンを水に例えるとバケツに水を貯めて、それが溢れた状態になるとアレルギーが発症するのである。

花粉症の時も突然だったのを覚えている。

杉花粉は2月頃から始まる。

私は最初、風邪をひいたと思っていた。

中々治らないなぁと一ヶ月半、風邪薬を飲んでいた。

ある時期になるとすうっと良くなり、暖かくなってきたから治ったのかなと最初の年は気づかなかったのである。

そして翌年また同じ時期に風邪をひいたようになり、ん?まさか?と思い耳鼻咽喉科に行ったら「花粉症ですね」と薬を出された。

それほど突然に出るのである。


歯科金属アレルギーは歯科金属を取らない限り悪化していく。

バケツからどんどん水が溢れ止まらないのだ。

歯科金属アレルギーをきちんと診断するためにパッチテストを行う事になった。

これは辛かった。

色々な金属の塗り薬を背中に塗るのだが、反応すると痒いのだ。

それを我慢し、また病院へ行くと見事に歯科金属で使われている金属に反応が出ていた。

「歯科金属を全て除去しなさい。」と言われ、今度は歯医者と掛け持ちになった。

歯科金属を取りなさいと言われても、簡単にポンポンとは行かない。

金属を取るために今より歯を削る事になるし、悪ければ神経を抜き、保険の利かないジルコニアなどの高価な白い歯を入れなくてはならない。

ここで私は大枚をはたき、口の中はダイヤモンドが何個も買えるほどの値段がかかった白い歯が入っている。


歯科金属アレルギーは今はかなり良くなってはいるが、ステロイドと抗ヒスタミン剤はかかせない。

14年経つがまだ薬が手放せないのだ。


でも良かったこともある。

知人でいきなり腎臓病になった人がいるのだが、正常な人と比べると30%しか機能していないというのだ。

その原因は扁桃腺である。

扁桃腺と腎臓がなぜ?と思うが、本当なのである。

知人は旅行など遊びに行くたびに発熱していた。

そして突然、血尿が出てびっくりし、病院へ行くとIga腎症と言われたそうだ。


私は昔から喉が弱く、よく喉が腫れた。

子育ての時には娘の鼻風邪が移り、39度超えの熱がでることも度々あった。

当時のかかりつけ医に扁桃腺をとることを打診されたくらいだった。

皮膚科の先生は自己免疫疾患の名医で膠原病などを研究している優秀な先生だった。

不思議な事に喉が痛いと手の症状が酷くなるのである。

それを先生に言ったところ、「喉の検査をしましょう。扁桃腺は怖いのよ。菌がすっと腎臓にいき、悪さをすることがあるのよ」と言われ、喉が痛い時は検査を受けていた。

そして喉が少しでも痛くなるとうがい薬で炎症を抑えていた。

知人の話を聞いたときに、私が何かのきっかけでその話をしていれば…と悔いた。

そうすれば彼女は腎症病にはならなかったかもしれないと思った。


そして今年は3月に義父を見送り、新盆だった。

義父の弟さんが来て、びっくりするような話をしたのだ。

お腹がチクチク痛むので病院に行ったところ、膵臓がんの可能性があると言われたそうだ。

しかし症状はあるのに膵臓がんではないという診断だった。

非常に稀なケースらしく、自己免疫で膵臓を攻撃し膵臓が炎症していると言うのだ。

弟さんは「最初、兄貴に呼ばれたかと思ったけど、守ってくれたんだな。」と言って帰っていった。


本当に人の体とは不思議なものである。

アレルギーもバカにできず、蕁麻疹などは気道を塞ぐくらい腫れて命の危険もあるほどだ。

アナフィラキシーもそうである。


そしてまた問題のある歯が出てきて、歯医者に通っている。

またジルコニアの歯を入れる為に大枚が出ていくのか…と戦々恐々としている。

ジルコニアとはダイヤモンドと同等の硬さがあり、性質も似ているという。

模造ダイヤモンドと言われるくらいだ。

だから私は宝石は買わないことにしている。

口を開けると宝石だらけだからだ。

50年近く生きていると本当に色々な経験をする。

来年は50歳になる。

織田信長の時代では人生50年だった。

しかし今は人生100年時代である。

やはり自分の歯で食べるというのが1番だ。

私はどんなに酔っ払って帰っても歯を磨く事だけは欠かさないようにしている。

アレルギーになったことは面倒ではあるが、歯科検診もきちんと受けている。

アレルギーにならず、皮膚科の先生に出会わなかったら、もしかしたら私が腎臓を悪くしていたかもしれない。

そう思うと災い転じて福となすという言葉が浮かぶ日々である。


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