第10話  集中力と続ける才能

私は割と集中することに少しだけ長けている気がする。

昔からこれ!と決めるとものすごい集中力を発揮する。

中学の頃にあと高校受験まで2ヶ月という時に辞書を丸覚えして、入試で英語だけ100点をとった事もあった。

あの時の集中力は今でも凄いなと自分で思う。


趣味でピアノを弾いてるのだが、ピアノにおいては全くやる気がないときは、本当によく破門にならなかったという位練習しなかった。

でもピアノの面白さに気づいてからは先生がだした課題よりも多くの曲を練習し、あっという間に教本を終えたこともある。

割と凝り性という面もあるらしくある程度追求することを好むのだ。


ピアノは小学生から中学生まで習っていた。

いわゆる15の壁と云われる高校受験を控えた子が割と辞めるケースが多い。

私も例外なく辞めたのだが、本当は辞めたくなかった。

音大に行きたいとかそういうことは考えてはいなかっのだが、ピアノが純粋に好きであった。

おかげで当時流行っていたジャニーズの光ゲンジのことなど全く知らなかった。

初めて知ったのは中学の時に、みんなうちわや下敷きなどを持っていてびっくりしたのを覚えている。

それくらいピアノやクラシックの曲以外には興味がなく馴染みがなかったのだ。


辞めてからはやはりモチベーションが保てなくなり、高校などはビートルズやレッチリ、ニルヴァーナなど色々な洋楽を聞いた。

なぜか日本のミュージシャンや歌手などに興味がなく、海外のアーティストに夢中になっていた。

しばらくすると結婚をし、子供を授かった。

子育てに追われ音楽どころではなかったが、ピアノへの種火は残っていたのだろう。

33歳になるときに近くのヤマハへ行ってみた。

子供も小学生になり、手がかからなくなった為ピアノ再開してみようという気持ちになったのである。

そこで運命の先生に出会う。

何んとなく個人の先生の方が格が上という気持ちがあったため、割と軽い気持ちであった。

しかしその先生はかなりの大当たりでピアノの先生というよりはピアニストという感じの先生であった。

先生に「何を弾けるようになりたいの?」と聞かれ「ショパンワルツが弾けるようになりたいです!」と答えた。

さすがに最初からショパンは弾かせてもらえず、ギロックなどの子供教材をショパンワルツへのアプローチとして1年半練習した。

そしてとうとうショパンワルツのOKが出る日が来たのだ。

ウキウキしながらショパンワルツのパデレフスキー版の楽譜を買いに行ったのを覚えている。

そして15番のショパンワルツの譜読みに入って2週間ほどした頃だった。

先生からヤマハの大人の発表会に出てみないかというお話をもらったのである。

先生は「人前で弾くというのは上手くなるわよ。でも今の自分のレベルより上のショパンワルツではなく、少し難易度を下げて安全な曲で出ましょうね。」と言われ、せっかくのショパンワルツでは出ず、ギロックの中から選びそれで発表会に出ましょうという事であった。

もう私の脳内の中はショパンワルツで一色なのに他の曲が入る余地はない。

4か月後に控えた発表会のための曲は一向に譜読みが進まず、ショパンワルツが次第に仕上がっていった。

先生はあまりのギロックの進まなさに匙を投げ一言言った。

「もう!じゃあショパンワルツで出る?」と言われまだ2ページ譜読みを残していたが、「途中まで弾いて終わりにするんですか?」と聞いたところ、「そんなわけないじゃない!全部やるのよ。私だってこんな経験初めてなのよ!」と腹をくくったように、もしかしたら半ばやけくそ気味に語気を強めて言ったのを覚えている。

ここで私の好きこそ物の上手なれ集中力が発揮される。

アッという間に暗譜し、かなり音楽的な表現まで細かく指導され、発表会では演奏が止まってしまう方々が多い中、ショパンワルツを弾ききったのである。

その後は私が弾いたワルツを他の方が次の発表会で弾いたり、ブラームスを弾けばその作品集から違う曲を弾いたりする方がでてきたのである。

先生には「持って生まれた資質ね。親族に音楽家の方はいた?」と聞かれびっくりした。


その後はなぜか先生が作品を選び、ヤマハ以外の発表会にも駆り出された。

先生の中では中々手ごたえのある生徒だったらしく、色々な曲を弾かされた。

でもとても楽しく、脳内はピアノ一色であったので練習することは全く苦にならなかった。


ある時ショパンのポロネーズ1番を先生に課題として出された。

「今のあなたよりはだいぶ上の難易度だけど、たぶん弾けると思うのよね」と言われた。

この曲は嬉しかったのを覚えている。

よく車の中でポロネーズ集を聞いていて、こんな曲が弾けるようになりたいなと思っていた曲であった。

またまたここで集中力を発揮する。

あっという間に譜読みが終わり、かなり細かく音楽的な表現などを勉強をした。

しかしポロネーズをレッスン中に先生がお父様の介護の為のリフォームをする為に2か月お休みを取ると言うのだ。

「この先生ならという先生に頼んでおいたから。」と言われ、先生はお休みに入った。

代理の先生の初めてのレッスンでポロネーズ1番を弾いた時に「大人でここまで弾ける人は初めて見た…」と言われた。

いや、世の中には弾ける人は沢山いるのである。

私の住んでいる街ははっきり言って文化度が低い。

ピアノをやっているというとお嬢様か何かだったの?と言われることもあった。

たまたまその代理の先生にとって初めてであったのかもしれないが、その時期は義母にも「ママ、上手くなったわねぇ」と言われる位、再開してから上達していたらしい。


しかし集中力の反動で困った面もある。

課題を出されていても気が向かなければ、全く頭に入ってこないのだ。

今まさにショパンワルツの時のように自分から弾きたいと思うベートヴェンのソナタは譜読みがどんどん進むのに、先生から勧められバッハのインベンションは全く頭に入ってこない・・・

バッハはフランス組曲は数年やったことがあるのだが、その時は砂が水を吸うようにあっという間に譜読みできたように思う。

普通はバッハはインベンションが先でその後フランス組曲などをやるのだが、私はすっ飛ばしてフランス組曲を先に取り組んだのだ。

バッハならではの面倒な練習もあまり苦にならず、数年、他の曲とかけもちでやっていた。


器用なのか不器用なのかよくわからない自分だが、好きこそものの上手なれという言葉は本当だと思う。


ピアニストや音楽家になる才能はないが続ける努力というのも才能の一つらしい。

50を前に人間の脳みそって無限大だなと思い、今苦手なベートーヴェンを弾き、バッハもやってみようと思う今日このごろである。



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