第6話  一人呑み

私は一人呑みが大好きである。

いつから一人呑みをするようになったのか記憶をたどると、体力作りのためにウォーキングをしていた40代手前のある日のことである。

歩いていると知り合いのもつ焼き屋からいい匂いがしてくる。

夕方に歩いていたのでちょっと一杯飲みたくなった。

今のようにキャシュレスが普及する前だったので、何かあったとき用に千円だけポケットに入れて歩いていた。

千円で一杯だけ飲もうと店に入ると、マスターとママが少しびっくりした顔をした。

いつもは夫と飲みに来る上に、私自体が飲みに行く回数は少ないが、マスターは夫の後輩であり、一緒にスノーボードにも行ったことがあるので入りやすかった。

「どうしたんですか?」とマスターに言われて、「ウォーキングしてたら飲みたくなっちゃってさ。」と答えると夫の焼酎のボトルがあるという。

それを飲むことにして、おつまみを頼んだ。

事前に「千円しかもってないよ」と言ったら笑われた。

おつまみがきて、最初の一杯を飲む至福の時を味わっていた。

ボトルの中は少ししか残っていないため、圧倒いう間に無くなり、「どうします?ボトル入れますか?」と言われたが、千円しかもってないことをまた言うと「旦那さん、すぐ来ますからツケときますよ。」と言われた。

喜んで次のボトルを入れ追加のつまみも頼み、常連さんたちとも和気あいあいとした雰囲気で凄し、良い心地で歩いて帰った。

初の1人呑みはツケ払いとなった。


私は膝を怪我してからスノーボードに行かなくなった。

行こうと思えば行けるのだが、朝早いし家でゆっくりピアノでも弾いてる方が楽しいのだ。

夫だけシーズンに入ると滑りに行くというスタイルになり、私は8時ごろゆっくり起きてテレビを見ながら朝食をとったりして、おひとり様タイムを楽しむようになった。

ピアノが趣味なので、一応毎日練習することにしている。

お酒を飲んだ後は感覚が鈍るので飲む前に練習することにしている。

午後から練習をはじめ、終わると15時近くになる。

私は思い立って一番近い大きな都市の飲み屋街へ行こうといそいそ支度した。

冬は16時半すぎれば暗くなってくる。ちょうどその頃に店に入り、好きなおつまみと最初はやはり生ビールである。

一人でいても案外寂しくなく、スマホで自分の好きな事をググりながらゆっくり飲むのだ。

むしろ一人呑みは楽しい。

完全に自分のペースでいられるし、考え事もできる。

そして追加の一杯を頼む。ガリサワーだ。ガリサワーとはお寿司のについてくるガリを焼酎のソーダ割に入れて飲むのだが、これが非常にさっぱりしていて美味しい。

大体この二杯を飲むとお会計になる。

そして、次に入るいい所はないかなとぶらぶらするのである。

そして一つの居酒屋が目に入った。

そこの店にはバイスサワーがある。

私はキンミヤの焼酎にこだまのバイスサワーを割ったものが大好きである。

二件目はここにして、暖簾をくぐった。

「バイスサワーをください。あと紅ショウガ天」と頼み来るのを待つ。

綺麗なピンク色のサワーで本当に美味しい。

最近知ったのだがバイスというくらいだから梅の果汁かなにか入っているのかと思ったら、成分を見るとリンゴ果汁と書いてあり、びっくりした。

電車で帰るので深酒はしないようにしている。

ふわっとするくらいが心地いいのだ。

そしてここではバイスだけ飲み、お会計して帰った。

駅に入ると花屋がある。私はそこで季節の花を少しだけ買い帰るのも楽しみである。

家でほろ酔いのまま花を生け眺めるのである。

ささやかな?楽しみの一つとなった。


それからはピアノのレッスンの帰りなどに行くようになった。

なんというかレッスンを1時間受けるとビールでも飲みたいなぁとなる。

わが町に一軒のバーがある。

60代のママがやっており、ウィスキーからカクテル、ワインでもなんでもある。

まずはビールを飲み、次に竹鶴ハイボールをもらう。

昨今は日本ウィスキーが恐ろしく高くなり、前は家のみでもボトルで買ったが、最近はご褒美にしていてバーで飲むことにしている。

そのあとはコスモポリタンを頼む。

コスモポリタンはSEX&THE CITYというドラマでよくヒロインたちが飲んでいる。

私もコスモポリタンが大好きで、このバーに来たときは〆によく頼むのである。

そしてママに「またね。」と言ってテクテク15分歩きながら家路につく。


この間の悶絶整体でも全く土地勘のない繁華街でバーに入った。

やはりビールから始まり、ウィスキー、カクテルなどを頼み、楽しく常連さん達と話をした。

マスターはキンミヤ焼酎のパックでウーロン杯を作って飲んでいる。

私は「キンミヤも置いてあるんですか?美味しいですよね、私シャリキンバイスが大好きで。」というと「お客さん、結構飲みに行ってますね。キンミヤから日本ウィスキーやコスモポリタンを頼む女性のおひとり様は珍しいですよ。」と言われた。

若い頃はやはり警戒心があり、一人で飲みに行くというのは怖いかもしれない。

でもこの年になると全然平気で、一人呑み市民権を得たのである。

この日は飲んだあとお腹が空き、天下一品でラーメンを食べホテルへ戻った。

行き当たりばったりではあるが、このおひとり様時間が本当に楽しいのである。

そんな生活を続けて数年・・・

健康診断を受けた。

お酒について質問されたので、まぁまぁ飲むということを伝えた。

そして念のためエコーもかけてもらった。

かかりつけの先生から、「もう少し酒量を減らしましょう。あと頻度も。でないと女性はアルコール依存症になっちゃいますよ。しかも脂肪肝ですよ。少しだけですが」と言われ愕然となった。

もう若くない体である。

そして医者に言われると怖さ倍増である。

家呑みはほとんどしなくなり、どうしても呑みたいときはノンアルコールのオールフリー内臓脂肪を減らすというものに変えた。

上手くいけば脂肪肝も改善されるかも?


今は整体に通う月一回を泊りで一人呑みならず、一人旅を楽しんでいる。

その時は思い切り楽しんで飲むようにしている。

秋はまた一泊の旅が整体のほかに二回ほど行く予定になっている。

その時もおひとり様時間を楽しみ、一人呑みを少し楽しみ心の洗濯をして家に帰ろうと思っている今日であった。

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