第2話 蜂の生き様
私は昆虫はあまり好きではないが(女性は少ないと思われる)、アシナガバチの生態に興味がある。
特に理系が得意ということもないが、アシナガバチ、蜂全般の生き方というか、命を紡いでいく生態系に興味があるのだ。
しかし、興味があるのはアシナガバチだけである。
スズメバチ科ではあるが、性格は大人しく巣をいたずらしない限りは攻撃はしてこない蜂である。
そして農家さんにとっては芋虫などを食べてくれる益虫なのである。
毎年5月頃になるとアシナガバチの女王蜂が巣作りを始める。
この女王蜂はその前の年に産まれた新嬢王蜂が越冬した個体だ。
春先になるとどこか安全なところはないかと、よく探している女王蜂に遭遇する。
最初は女王蜂だけで巣作りをし、3部屋ほど部屋を作ると卵を産むのだ。
そうして次々と巣が大きくなるにつれ、蜂が増えていく。
うちには毎年ポストがある場所に作る女王蜂が巣作りを始める。
私はそのままでもいいが、郵便局の方困るだろう。
その時はまだ巣が小さい時に、心のなかで「ごめんよ…」と蜂退治スプレーをかける。
可哀そうなのだが、しょうがないのである。
ある時に気づかすにいたら、配達員の方から「蜂の巣あるの知ってますか?」と言われた。
この年は違う蜂の巣の観察をしており、すっかり忘れていたのである。
見に行ってみるとまぁまぁ大きな巣があるではないか!
これでは配達員さんはポストに手を伸ばす度にさぞ怖かったであろう。
そしてついに我慢の限界がきたと思われる。
可哀そうだが駆除するしかない。
覚悟を決めてまたもやスプレーで駆除をした。
小さな命ではあるが、命は命だ。
後味の悪いものである。
その年を最後にそこには巣が作られる事が無くなった。
うちには仕事関係の部材などを入れる割と大きな倉庫があるのである。
蜂たちには恰好の場所らしく、窓の隅や軒下に巣を作ることが多かった。
家人以外は入る場所ではないので、私は駆除せずに時々見に行っては蜂たちの様子を見るのが好きだ。
春から秋までが活動期間で、秋に新女王が産まれる。
それまでには100を超える部屋を作るアシナガバチもいるという。
だが、アシナガバチにとって危険なのは人間ではない。
もちろん人間も恐ろしいだろうが、最も怖いのは同じスズメバチ科の本格スズメバチだ。
あちらさんも同じ生態であろうから、蜂が増えれば食べ物がいるのだ。
特に新女王が誕生するころは必死であろう。
その頃は日本は台風シーズンでもある。
それもかなり巣にとってはリスクの要因となる。
でもそれを耐え忍ばなくてならないのだ。
1番切ないのはやはりスズメバチの攻撃だろう。
私が観察をしていると、まず一匹の偵察隊のスズメバチが来る。
そしてアシナガバチの巣を見つけると仲間を呼びに行くのであろう。
しばらくすると数匹のスズメバチが来る。
体の大きさ歴然で、抵抗したところで勝ち目はないが、必死に巣を守ろうとする。
9月頃はこの光景をよく目にする。
午前中に見つけられた巣は、夕方には無惨な姿になり、蜂の子は全て連れ去られていた。
蜂の子を出すときに部屋に覆っている窓を壊すゴリゴリという音が3メートル離れていても聞こえるのだ。
まさに断末魔…
夕方に巣の下を見ると数匹のアシナガバチの死骸が落ちている。
勇敢に戦ったが、命を落としたのであろう。
新女王蜂が難を逃れていれば、まだその命の紡ぎは続く。
そして新女王蜂は来年の為に11月頃に越冬に入る。
生き延びていれば来年また巣を作れるのだ。
この自然の摂理には人間は絶対に割って入ることができない。
弱肉強食の世界なのだ。
種の存続の営みなのだ。
そして必死に生きるアシナガバチを見るたびに、私も毎日悔いがないように精一杯生きることが、命を与えられた使命であると思う。
その時は本当にそう思うのだが、ダイエットは明日から、これは明日やろうという事も少々ある。
一度アシナガバチに産まれて修行をしなくてはならないのかもなと思う9月の日であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます