48話 信じているからこそ

「ローエンの傷は治ります。今後、動けるようにもなるでしょう。しかし自然治癒力を上げる薬を飲んだからには、一時間も経てば内臓の痛みがくるでしょう。そうなると動くことは出来ません。どうしますか?」


 クアミルはローエンの手当をしながら、みんなに問いかけた。手は動かし続けている。並列作業が得意なのだろう。


「ローエンを連れて引き返すか、ラウエスにローエンを任せるか、ローエンを置いて先に進むか。この辺りか?」


 エリックは顎に手を当てている。


「引き返すことのメリットと、デメリット」


 シノは呟いた。


「引き返せば、ローエンが無事に休める。これがメリットだよね。ただ、引き返した場合は、時間を消耗して、僕達がアトラクシアに向かっているのがバレてしまう。そうなれば敵も警戒する。これがデメリットか……どうする?エリック」


「先に進んでください」


 返事をしたのはエリックではなく、ローエンだった。ローエンの状態は良さそうだ。クアミルが手を動かし続けて、治療を続けている。


「この洞窟に敵が二人しかいなかったのが、そもそも奇跡です。おそらく、念の為に部下を置いておく程度の認識だったのでしょう。アルジャーノにとっては。敵の隙を突く、最大のチャンスです。敵が、アトラクシアの攻略に手間取っているという可能性もある。今こそ先に進むべきです。私は大丈夫。岩陰にでも隠れています」


 そこでローエンは咳き込んだ。


「一人だけでも、ローエンの側に残るべきじゃないか?クアミルに残ってもらったほうがいいんじゃないか?」


 シノは、咳き込むローエンを見ながらいった。心の中では、『置いていけないよ』という言葉が浮かんでいた。


「クアミルは貴重な回復要員です。敵は、全員の全力を出さなければ勝てない相手でしょう。私は、本当に大丈夫です。自衛くらいなら出来ます。現に、あれだけの傷を受けましたが、クアミルの薬と治療で喋れるようにまでなっている。行きなさい!アルジャーノを倒すのです!」


 全員が静かになった。シノが何か言いたそうにしている中、エリックは決断した。


「先に進もう。クアミル、処置は?」


「順調です。血も止まっていますし、薬も効いています。あと一時間程で内臓が痛み始めるかもしれませんが、それは薬の効果です。ローエンは無事です」


「よし。ローエン、お前はここで待っていてくれ。必ずアルジャーノを倒して戻ってくる。約束は守る。必ず倒してくる」


「死んではいけませんよ。旅の終わりを祈っています」


 ローエンは微笑んだ。みんなを見守るように。


「ありがとう。行ってくる。みんな!行こう!」


 エリックは、意を決して歩き出した。ローエンを置いていくことに、不安がなかったわけではない。しかし、エリックは進むことを選んだ。ローエンがそれを望み、また、エリックも先に進まなければならないとわかっていたからだ。

 進軍しようとするエリック達の中、シノが心配そうにローエンの方を振り返った。ローエンは横になったままだ。

 シノは唇を噛みしめるように俯き、エリックの後ろを追った。

 無事でいてくれよ。そんな風に思いながら。

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