38話 優しさを追い求めるには

「面白い方たちですね。あなた達はなぜ旅をしているのですか?」


「エリックの恋人が、病に倒れたのです。その恋人を救うために、倒さなければならない敵がいるのです。アルジャーノという人物です。その人物はエリックを騙して、陥れた。アルジャーノを倒せば、エリックの恋人も呪いから解放される。私は傭兵ですが、エリックの人柄に惹かれて旅をしています。シノは恩返しのためです」


「なるほど。病は薬では治せないと?」


「おそらくは」


「ふむ」


 クアミルは右手を顎に当てながら考える。薬師なのだから、薬の力で治せないか考えるのは妥当だろう。職業柄である。


「アルジャーノという人物を倒しに来たということですが、水の都アルカディアにはそんな人物はいません。なぜ、アルカディアに来たのですか?」


「それは少し説明が難しいのですが、アルカディアになんらかの手がかりがあることは間違いないのです。アルジャーノがいなくても、アルジャーノに繋がる手がかりが必ずあるはずです。そうですね、話しましょう。鳥が教えてくれたのです。天秤の鳥と呼ばれているようです。言葉を話す、神様の使いが水の都アルカディアへ向かえと。だから砂の都ノーバイドから枯れ木の廃墟を通り、アルカディアまで来ました」


「天秤の鳥、ですか。先程も言っていましたね。その鳥はもしかして、真っ白な鳥ですか?」


「そのとおりです。知っているのですか?あの鳥を」


「会ったことがあります。私は軽装で旅をしていました。それなりに護身術は身につけていたので、一人旅です。新たな薬の材料となる自然を、探し求めていました。確か、大きな幹の樹の下で休憩していた時のことでしたね。白い鳥が目の前に降り立ったのです。鳥は私に言いました。『水の都アルカディアへ向かえ』と。私は、鳥が喋ることに疑問を感じませんでした。普通なら驚くところですが、その鳥が喋ることは、自然に思えたのです。私はアルカディアへと向かいました。そして辿り着いたアルカディアでは、疫病が蔓延していたのです。街の薬師もお手上げで、死者も出るほどの勢いでした。私は薬師としての知識を最大限振り絞り、薬師ギルドの建物を借りて研究をしました。今でも思い出せる。3日間、一瞬のような、とても長いような時間を食べずに寝ずに研究をしました。その成果で、なんとか疫病への特効薬を作り出すことが出来たのです。街の人々に作った薬が効いてくれて、良くなってくれました。あんなに嬉しかったことはありません。その後倒れ込むように寝てしまいましたが、あの鳥は、私に命を救えと伝えたかったのだと思います。なんでも知っているのかもしれません。神様の使いというのも頷けます」


 クアミルは話の内容に驚いた様子もなく、すらすらと話した。

 ローエンとシノは感嘆していた。薬師というのは本当に凄いと。


「なぜ薬師になって人を助けたいと思った?クアミル」


 シノが知りたくなって尋ねた。純粋な好奇心である。


「理由ですか。それは、優しくなりたかったからです」


「優しく?クアミルは優しいじゃないか」


「いいえ、私は優しくありませんでした。確かに私は、平均的に言えば優しい人間だったと思います。しかし、私には力がなかった。病気の人を助けられる力もなく、ただ声をかけて応援してあげられるだけ。それが嫌だった。優しさの半分を、人間は持つことが出来ます。しかし、本当の優しさを得るためには、想いだけではいけないのです。力がなければならない。私は力を求めました。人々に寄り添って人々に優しく出来るための力を」


 クアミルは伏し目がちに語った。その言葉には一切の迷いがない。

 シノは、クアミルの言葉に黙ってしまった。一見華奢な女性のクアミルだが、その心の中に持っている、有り余るほどの優しさに感嘆してしまったからである。


「だから、ラウエスさんを助けることが出来て良かったです。エリックさんもすぐに良くなるでしょう。さあ、食事も終わりましたし、薬師ギルドに行きませんか?」


 クアミルは言うなり、席から立ち上がった。その動作は華麗で優雅だった。

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