30話 別れと旅立ち

「よろしく、エリック。それにローエン。クイナ様の頼みだから。それに……可哀想だからだ。痛々しくて、見ていられない。僕の力を貸す」


「ありがとう、シノ」


 エリックはシノに頭を下げた。それに対して、シノは右手を差し出した。


「お礼を言われる筋合いはない。まだ何もしていない。ほら、握手」


 シノに言われたエリックは握手に応じた。掴み合う手。シノの手は力強かった。

 頼もしい仲間。しかも、見返りを求めない仲間。エリックは神に感謝するのではなく、ローエンとシノに感謝した。


「シノ、よろしくお願いします。では行きませんか?水の都アルカディアに」


 ローエンは微笑しながらいった。目的地は決まったのだ。いつでも行動に移すことが出来る。重い腰を上げるという感じでもない。


「穏健派の者は、みんな君たちに感謝しているんだ。祝勝会が終わってからでもいいんじゃないか?」


「いえ、クイナ様。俺たちは、水の都アルカディアに向かいます。穏健派の方々にはよろしく伝えておいてください。砂の都ノーバイドに平和が戻ってくることを祈っています。お世話になりました」


「そうか……こちらこそだよ。ありがとうエリック君」


「行こう!水の都アルカディアへ!」


 エリックは仲間たちの方を見た。潰れかけた希望が、芽を出している。

 芽は息吹き、やがて希望となる。希望を信じて旅をする。



 砂の都ノーバイドの入り口に、エリック達はやってきた。メンバーは、エリックとローエンとシノである。シノは懐かしそうに砂の都を見渡していた。長らく、この街に世話になった彼女。別れの時だ。


「シノ、クイナ様はああ言ったが、無理についてこなくてもいいんだぞ。俺のワガママな旅だ」


「いいよ。エリックの気持ちは痛いほど伝わったから……僕の力が必要だろ?それに仲間だって言ってくれたじゃないか。嬉しかったよ」


「ありがとう、シノ。頼りにしている」


 エリックは真剣な表情だったので、シノは笑顔を見せた。


「問題はアルカディアへの道のりですね。ここから北……枯れ木の廃墟を通らないと、アルカディアへはたどり着けないはずです」


 ローエンは思案している。

 枯れ木の廃墟。あちこちに枯れ果てた木が広がり、毒沼があり、治安も悪いと言われている。アルカディアへ向かおうとしている旅人を狙って、襲いかかる野盗もいるという噂だ。


「歩きながら考えよう。いくらでも相談は出来る」


「確かに。では行きましょうか」


 頷くローエン。エリック達は、砂の都ノーバイドから外に出た。

 その最中、シノはもう一度街を振り返った。


「今までありがとうございました」


 シノは懐かしむような声で、そう呟いた。

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