24話 犠牲の上の幸せ

 ヴァルゴが合図した。

 それと同時に、エリックとシルヴァは相手へと距離を詰めた。

 シルヴァの方がやや速い。エリックはシルヴァの縦に振られた剣を、銀色の剣で防いだ。

 ぶつかり合う刃。互いに譲らない。交わる剣。


「よそ者ごときが!!わかったような口を聞くな!!お前たちに、この砂の都の過酷さがわかるか!!たかが旅人が!!」


「置いていかれて!!死を待つのみの人を!!思いやれないお前の気持ちなどわからない!!」


「ならどうすればいいんだ!答えてみろ!!」


「別の方法を探すんだ!この争いそのものが無駄なことだ!この時間を平和に使えるはずだ!何故争う!!」


「勝って豊かな土地に移動するためだ!!家族に報いるためだ!!」


 シルヴァは剣にさらに力を込めた。エリックがやや押される。

 エリックには時を止める剣がある。振っている間は時間が止まる、時空の剣。

 だがしかし、エリックが剣を振らせてもらえない。シルヴァの剣撃を防ぐので手一杯だ。


「まずい」


 離れた所で見守っていたローエンがいった。


「まずいな。あれ程の手練がいるなんて」


 シノは舌打ち。

 エリックは集中していた。剣を一振り出来れば勝てるのだ。

 だがしかし、その一振りが出来ない。

 防御に手一杯。

 シルヴァは、全力をもってエリックに挑んできている。信念がシルヴァを動かしている。その信念が正しいのかどうかは別として。シルヴァの剣撃はさらに強くなった。


「誰から恨まれようが豊かな土地に移るんだ!!病気の者など置いていけばいい!!散れ!!よそ者!!」


「病気の者など置いていけばいいだと!?」


「そうだ!!」


「貴様!!」


 エリックは怒った。頭に浮かんだのは、病に倒れたクスハの顔。

 病気のクスハの顔。

 目の前にいる人物に、負けてはいけない。

 絶対に負けてはいけない!

 エリックは防戦一方だった剣を、初めて反撃に使った。相手の剣は速く重いが、クセがあった。その攻撃のクセを見抜き、剣で受け流した。軽く弾く。

 シルヴァは、少し弾かれた剣を再び振り落とそうとしたが、剣を握っていた手の中に、剣の感触はなかった。

 何が起きたのかわからないシルヴァ。自分の剣がない。

 シルヴァの剣は、シルヴァの後方の地面に落ちている。

 エリックは、丸腰になったシルヴァの隙をついて、シルヴァを突き飛ばした。地面に倒れ込むシルヴァ。

 穏健派の観客たちから歓声が上がった。一方、行動派の観客たちはどよめいていた。行動派の長ヴァルゴも驚いていた。いつの間にか、シルヴァの剣が地に落ちていたのだから無理もない。

 エリックは剣を納めた。勝負はついた。


「人の不幸を嘆きつつも、人の不幸でしか望みを叶えられない。自分の行いの矛盾をよく考えてみるんだな」


 エリックはシルヴァに言い放ち、振り返りクイナ達の所に歩いていった。

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