19話 勝ち逃げの布石

「勝利をクイナ様と穏健派のために」


「頼りにしてるよ、シノ。エリックくんとローエンにも、勝ってもらわなければなら

ない。決闘の五人の内、残りの二人も、穏健派の中で一番腕っぷしの強いヤツに出てもらうけど、アンタ達が負けたら終わりだという覚悟で臨んでほしい」


 クイナは微笑した。今までにない表情だった。その微笑が素顔なのかもしれない。


「わかりました。クイナ様、決闘のルールは決まっているのですか?」


 エリックが質問した。ローエンも同じことを思っていた。


「決まっているよ。お互いに、場に出る人物を一人選ぶ。同時に顔出しして、一対一の戦いをする。相手を殺してはいけない。地面に倒れたら負け。三回勝ったほうが勝者。一度試合に出た人物は、もう参加することは出来ない」


「なるほど」


 頷くエリック。そして、当然の疑問が頭に浮かぶ。


「出る順番はどうするのですか?」


「そうだよね。こちらとしては、シノと、エリックくんと、ローエン以外は頼りない戦力だ。残りの二人に、なるべく怪我はさせたくない。だから、最初から全力でいって、三勝して勝ち逃げする。でも、そうだな……シノは最初じゃないほうがいいかもしれない」


 クイナは首を傾げながらエリックたちの方を見ている。


「シノが一番だと、その戦い以降、相手が警戒するということでしょうか」


「そうとも。なかなか切れるねローエン。シノはそうだな……三戦目かな。相手は、初戦はマグレだと思うかも知れない。一番目にエリックくんかローエンに出てもらって、勝つ。二戦目は出てないほうが出る。シノが三戦目に勝つ。それでいけるね」


 クイナは納得したような表情をしている。一方、エリックとローエンは少し戸惑った。エリックとローエン、どちらが強いのかはまだ決まっていないからだ。

 奥の手を含めて。


「どうしますか?」


 ローエンは赤い瞳をエリックに向けていった。勿論、順番のことである。


「迷いどころだが……俺が最初に出る。クイナ様、先発は俺に任せてください」


「負けるなよ」


 鋭い眼光のシノ。エリックを疑っているかのようだ。自分が連れてきたとはいえ、負けられない戦いなのだから当然だろうか。


「必ず勝ちます。相手を殺してはいけないというのが良い。相手の武器を弾き飛ばして、押し倒しておしまいです」


「ずいぶん自信があるじゃないか」


 クイナは不敵な笑みを浮かべた。彼女は、人間には自信に溺れている人間と、実力に裏打ちされている自信を持つ二つのタイプの人間がいることを知っていた。そして、エリックのことを、後者だろうと踏んだ。


「よし!エリックくん、ローエン、シノの順番で決闘に出る。質問は?」


「決闘の日はいつですか?」


「明後日の正午だ。それまでは、この穏健派のテントで寝泊まりするといい。頼りにしてるよ。他にあるかい?」


 エリックとローエンは顔を見合わせた。お互いに頷いた。


「他には特にありません」


「頼んだよ。シノ!宴の準備だ」


「かしこまりました」


 シノはクイナに頭を下げた。エリック達の方を鋭い目つきで見ながら、シノは幽霊のようにひっそりとその場から去っていった。


「宴?」


「そうとも。戦える役者が揃ったんだ。祝わない手はないだろ?ま、宴なんて結局は、人間が理由をつけてやりたいだけのものだけどね。今は平和なんだ。楽しもうじゃないか」


 クイナは笑顔で発声している。どうも、自分たちの到着が喜ばれているようで、エリック達は不思議な心境だった。

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