17話 この愛さえも愚かなのか

「ローエン、お前の理想はわかった。皇帝の棺なんてロクなもんじゃないが、確固たる人の意思に口を挟む権利は、私にはない。探そうが探すまいが、勝手にすればいい。それで、エリックくん?君はなんで皇帝の棺が欲しいんだ?」


 クイナは、エリックよりははるかに年長のようだった。


「恋人が、愛する人が、治らない病に冒されました。どんな手を使っても、病を止めることが出来なかった。だから旅に出ました。優秀な薬師を探すため。そして、皇帝の棺の不老不死の力を探すために。不死の力さえあれば恋人も救われます。愛する人に不老不死の力を使うために」


 エリックも、本心の言葉を語った。クイナはそれを黙って聞いていた。

 そして、聞いているクイナの表情は、鬼気迫る怒りに変わっていった。


「ふざけんな。お前、自分がどれだけ愚かなのかに気づかないのか?」


「愚か……?恋人は、クスハは、死んでしまうかもしれないのです!!生きている権利を持っている側は、なんとでも言える!!しかし、クスハは死んでしまう!!」


「クズが……お前、その恋人に不死の力を与えたらどうなるのか、わかっているのか?不死の力で病は治るかもしれない。だが、その後どうなるか考えなかったのか?お前と恋人は、しばらくは幸せになるかもしれない。しかし、それも何十年かの話だ。お前は老いていき、やがて死ぬ。不老不死の恋人を残して。恋人は孤独になり死ぬことも出来ない!一生、一生死ぬことはない!!どんなに苦しい立場に置かれても、不老不死の呪いに囚われ続ける!!死ぬのは怖いさ。だが、人間はそれに立ち向かわなければならないんだよ!!馬鹿野郎が!!そんな、身勝手な思想の愚かな旅人に、皇帝の棺の情報を教えるわけにはいかない!」


「それは……」


 エリックは動揺した。目の前の事象ばかり追いかけて、先のことを見通してはいなかった。クイナに反論出来ない。彼は認めたくなかったが、避けがたい正論だったからだ。

 俯くエリック。急に、すべての道が閉ざされてしまったかのようじ。どうすればいいのだ。クスハのことを愛しているのだ。


「しかし!!しかし、俺は賢者から聞いたんです。書物を読んだ!!そこには、シャガール王の呪いは、棺を見つけたものにしか治せないと書いてあった!!不老不死にならなくても、皇帝の棺さえ見つければ、クスハの黒いアザも消えて治る可能性だってあるはずだ!!いや、きっと治る!!治して……治して見せるんだ……クスハ……」


「賢者?黒いアザ?」


 クイナの表情が怒りから驚きに、そして警戒に変わった。


「その賢者の名前は?」


「賢者に名前など、聞いたことはありません」


 涙を流しながら俯いているエリック。彼は、人前で泣いてはいけないことくらい知っている。その上で、涙を止めることが出来なかった。

 クイナは思案していた。もしかすると、この青年は……。

 もしも、その賢者が……。いや、恐らく。そうであるならば……。

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