第43話 抱擁 〜ギュッとされるだけで、力が湧いてくる〜

 一日いちにちわりにしかかると、日中にっちゅうに動き回った者たちを、夕日ゆうひらしてくれる。ここ、ローレライ王国もそれは同じらしく、東の空からあらわれたその光は、西の彼方かなたへとしずんでいく——。


 もうすぐ、ぼくのローレライ王国での初勤務はつきんむ終了しゅうりょうする。のこ業務ぎょうむは一つ、ココム教育大臣きょういくだいじんとのミーティングだけだ。


 定刻ていこくまで、まだ時間がある。だが、ぼくとウミの二人はすでに、約束やくそく会議室かいぎしつにいた。


「それでですね、その妹さんが、じつはっ! お兄さんにこいをしている、という展開てんかいでして。でも、お兄さんはクラスの風紀委員ふうきいいんの女の子が好きなのです。ですが、その子は——」

 ウミは、最近ハマっているアニメのことを教えてくれるのだが……。

「リクさん……?」


 心配しんぱいそうに見つめてくるウミに気が付いて、ぼくは無理に笑った。

「ごめんごめん! それでその妹さんは風化委員の女の子との恋がみのったのかな?」


 話を続けようとするも、

「違いますよ! 妹さんが好きなのはお兄さんです!」

 とほおふくらませるウミ。


「え、あ、え、ご、ごめんっ!」

 ぼくが、ウミ大先生の機嫌きげんそこねたかときもやしていると……。


 ギュッ。


 ウミ大大大先生が、脈略みゃくりゃくなく、ぼくのことを、優しくだきしめてきた。


 ……え?!


 状況じょうきょう理解りかいできないままに、ぼくは心のうちを口にした。

「ど、ど、ど、どうしたのウミちゃん?! ウミさん?! ウミ大先生?!」


「大先生ではありませんし、『どうしたの?』はこちらの台詞せりふです。おつかれでしたら、私とココム教育大臣とで話を進めますから、自室じしつで休まれてはどうでしょう?」


「ウミ……」


 ぼくがボーッとすることは今に始まったことじゃないけれど、確かに今日はもう疲れた。それに、新しい情報じょうほうが多くて、色々と整理せいりしたい気持ちもある。

 ……だけど、今日はミーティングで最後だし、何より今、ウミに力をもらった。

 おもてには出さないけれど、ウミだって疲労ひろうたまっているはずだ。ぼくからもお返ししないといけない。


 ギュッ。


 ぼくは、王女様のうでを回した。すると、ウミの顔がすーっとあけまっていくのがわかった。

「リクさん……私は大丈夫だいじょうぶなのです……」


「何が……大丈夫なの……?」


「ギュッは……大丈夫なのです……」


 うつむきがちで、みるみる声が小さくなっていくウミ。


 ぽんぽん。


 ぼくは、ウミの頭をでて、一歩退いた。

「ありがとう、ウミ。ぼくはもう本当に大丈夫。……よしっ! もうひと頑張がんばりだっ!」


「はいっ!」


 夕日が地平線ちへいせんに、その姿すがたかくしていく。


 ——もうすぐ定刻だ。

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