第38話 要素 〜サービスは複数存在する〜

 ぼくは、スワオンさんが持ってきてくれた帳票ちょうひょうを手に取って、ながめる。

 この帳票には、あるものがけている。……いや、ローレライ王国の介護界隈かいわいにとっては、これが普通ふつうで、一般的いっぱんてきで、不十分ふじゅうぶんであるという視点してんがないのだろう。


 わざとらしく、一つせきをしてから口にする。

「スワオンさん。このご利用者にかぎらず、あなたが知っているのは、この事業所じぎょうしょが知っているのは、ここに書かれてある情報のみでしょうか?」


 くと、怪訝けげんそうにしながらも、スワオンさんははっきりとこう答えた。

「はい、そこに記載きさいされていることしか知りません」


「それはまた……こまったな……」


 率直そっちょくに言えば、ぼくが想定そうていしていたものよりもひどい。これでは、良質りょうしつなケアはできない。


 途端とたんに歯を食いしばるぼくに、ウミは首をかしげながら、ケモ耳をげながら、銀髪ぎんぱつらしながら訊いてくる。

「この情報以外に何か必要なのでしょうか……? 私には、先ほどリクさんが言っていた『サービス中にられる情報を収集しゅうしゅうする』ということさえ追加ついかでできれば、問題ないように思えます」


「……いや、大問題だいもんだいさ。たとえば、そのご利用者が病状びょうじょう変化へんかてもらうために通院つういんをしていたら? 例えば、日中にっちゅう介護施設かいごしせつかよっていたら? 例えば、手すりやつえ業者ぎょうしゃからりていたら?」

 ぼくは、まくし立てるようにそう言った。


 ぼくの問いに「うーん……」とうなるウミ、まだわかっていないようだ……。たいしてスワオンさんは、口を手でおおっていた、どうやらさっすることができたらしい。


 二人から返事へんじを待たずにぼくは口を開いた。

疾患しっかん状態じょうたいを知らずして介護サービスをすれば、絶対にやっちゃいけないことをしてしまうかもしれない。一つげるとするなら……そうだな、服薬ふくやくとか。んで良い薬は、病状びょうじょうによって変化へんかしたりするでしょう? もちろんそれだけじゃない、その他にも沢山たくさん要素サービスが、ご利用者に関係かんけいしているから、介護事業所もそれぞれの現状げんじょう把握はあくしておかないといけない」


「ですが——」


 ちていない表情のウミが何か言おうとするも、って入るようにして、スワオンさんが質問してきた。

「リクさんの言っていることはわかりました。正論せいろんだと思いますし、今すぐにでも取り入れるべきだとも思いました。しかしながら、事業所同士どうしがそこまでみつに情報を共有きょうゆうするのには限界げんかいがあるはずです」


 それは……スワオンさんの言う通りだ。


 だからぼくらは、とあることを守らなければならない——。

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