第30話 会社 〜介護事業所、いざ見学っ!!〜

 キィィィイイイイイ……。


 事業所じぎょうしょとびらを開くと、悲鳴ひめいにも似たきしみ音が反響はんきょうした。


 チカチカ……チカチカ……。


 中は薄暗うすぐらく、空気が重い。


 チカチカチカチカ……。


 あかりはあるけれど、むなしく点滅てんめつしている。チカチカという耳障みみざわりな音の正体しょうたいはこれだ。


 デスクやPC、キャビネットなど、ある程度の環境はあるようだが……。一見いっけんしてわかる、ほとんど清掃せいそうをしていないのだろう。

 それに、オフィスのいたるところに書類しょるい山積さんせきしている。雑然ざつぜんとしていて、これでは客どころか、従業員じゅうぎょういんすら働けない。


 そしてその従業員じゅうぎょういん五名は、PCと向かい合っていて、ぼくたちの方に目をやろうとしない。ぼくだけならまだ良いけれど、この国の王女が来たんだ。振り返る素振そぶりすら見せないというのはおかしい。


 ぼくは、胸騒むなさわぎがしていた。かんがる中で、もっとひどいかもしれない。


 こんなところ、ウミを歩かせるわけにはいかない。

「ここで待ってて、話してくるから」


 心配しんぱいしてウミにそう言うが、どうやら杞憂きゆうだったようだ。ウミは、胸を小さくたたいて言った。

「問題ありません。私には、この目で確かめて、この手で変えるという義務ぎむがありますから」


 本当、大した王女様だ。ぼくもウミの気概きがいに負けないようにしないと。


 ほこりの道を二人で歩く。ゴブリンさんやドワーフさんの間を通り、あるかたの前で足を止めた。


 カタカタカタカタ。


 がたいの良さからかもし出される強者感きょうしゃかんるいを見ないタイピング速度、座席ざせき位置いちでわかったのだ。彼こそが——人狼じんろうさんこそが、この事業所の管理者ドンだ。


 ぼくが何から言うべきか思案しあんしていると、ウミは躊躇ためらいを一切いっさい見せずに、

「こんにちは、お仕事お疲れ様です」

 と声をかけた。


 一国いっこくの王女が挨拶あいさつをしたところで、人狼さんは驚くべき行動にでた。


「ウォオオオオオオッ!!!!!」


 その肉厚にくあつうでで、ウミになぐりかかる——。

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