第29話 社会 〜マナーを守ろう〜

「へええ、これがローレライ王国の介護事業所かいごじぎょうしょかあ……」


 カレーっぽい何かを胃袋いぶくろにしまいこんだぼくとウミは、とあるレンガづくりの建物たてものの真ん前にいた。……ちなみに、カレーっぽい何かは、見た目は最悪さいあくだけれど、味は形容けいようできないくらい美味かった。あのカレーのようなものは絶対に流行るから、今のうちに見た目だけをどうにかするべきだよな本当。


 建物は、屋根やねがオレンジ色で、外壁がいへきは白い。一見いっけんすると、一般住宅いっぱんじゅうたく大差たいさないのだけれど、中は案外あんがい広いらしい。


 ぼくが、ほえぇと言いながら、じっくり観察かんさつしていると、ウミはあっけらかんと口にした。

「では、入りましょうか!」


 は、入る?! ぼくが?! 介護事業所に?! いきなり?! 突撃とつげき?!


「ちょっと待って、仕事中じゃないの?」


「もちろん仕事はされていると思いますが、入らないと実態じったいがわからないじゃないですか」


「……いやでも、邪魔じゃまじゃない?」


「邪魔にならないように見学けんがくさせてもらうのです。アポはすでに取ってますから」


「ああ、なるほど、そういうことなら……」


 介護事業所は、多忙たぼうな日々を送っているから、アポなしでおとずれられたりすると、わりこまることが多いんだよなあ。もちろん、他事業所たじぎょうしょさんとの連携れんけいかせないから、笑顔で出迎えるけれど。

 どんな風に出迎えているかというと、例えば……

 ラッシャーセーッ! とか、

 こんにちワッショイ! とか、

 よっ! とか。

 うそです、めちゃ丁寧ていねいに出迎えてます。


 ……っと、脱線だっせんは良くない。

「それじゃ、失礼して」


 ぼくが、事業所のとびらに手をかける。それとほぼ同時に、ウミの手がぼくの手に重なる。

 ………これ今どういう状態じょうたい


 すると、ウミは、かぶりを振って、

「まずは、ノックをするか、インターホンを押すかです」


「ノック?! インターホン?! ほ、本当に言ってる?!」


「はい、それがマナーですから」


 この世界にもノックとりんのマナーが存在そんざいしたとはっ! 環境かんきょうは違っても、それなりに共通点きょうつうてんはあるものだな。うむ、興味深い、それに面白い。


 ところで読者さん。いいえ、読者様。ぼく、思うんです。マナーを守ることって大切ですよね。

 世の中には色んな考えを持った人がいて、ぼくたちはそのなかで生きていかなければなりません。

 生きていれば誰だってなやみはかかえるものだし、ストレスもあるはずです。ある程度のストレスがないと、幸せを実感じっかんするとこは難しいですが、でも極端きょくたんにストレスばかり感じるのは精神衛生せいしんえいせいじょう良くないですよね。

 ストレス社会と言われる昨今さっこん、一人ひとりのマナーを守る心がけって、かなり重要じゅうようなんです。マナーを守って、一人でも多くの人が余計よけいなストレスを感じず、気持ち良く生活できるようにしていきたいですよね。

 そのためにぼくが意識いしきしているのは、自分がお手本てほんになることです。ぼくを見た人が、「私もそうしよう」と思ってくれることもあります。それって素敵すてきですよね。だからまあ、誰かがお手本になるのを待つのではなく、まずは自分が——。



 ピーンポーンッ!!!


 呼び鈴の音で、ぼくはハッとして、ウミの方を見た。

「入りますよ?」

 と、いぶかしそうに言うウミ。

 ぼくは、間髪かんぱつ入れずに返事をする。

「う、うん!」


 ……またまた脱線してしまった。どれだけ脱線したら気がむんだよぼく……。

 ぼくのことを好きと言ってくれるウミでも、ぼくがボーッと妄想もうそうふけっている姿を見て、「何やってんだコイツ」と思ったことだろう……。


 ……待てよ? ウミにさげすまれるのも悪くないなっ!!

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