第28話 実験 〜見た目をどうにかしてほしい〜

「リクさーん! リクさーん!」


 ぼくがくらがりでわなわなしていると、突如とつじょ、どこからともなくウミの声が聞こえてきた。声が反響はんきょうして、どの方向ほうこうからはっしているのかまでは不明ふめいだが、距離きょりは近い気がする。


 よし、ぼくも!


「ウミー! ウミさーん! ウミちゃーん! ここだよー!」


 呼びかけると、すぐにウミの声が聞こえてきた。

「リクさんの声がしますっ!」


「こっちだよー!」


「こっちって、どっちですかー!」


「それはぼくも聞きたいよー!」


 カオス。これぞカオス。

 ウミがどこにいるかだけじゃない。視界しかいうばわれていては、自分のいる位置いちさえわからない。

「くそっ、ここは一体どこなんだよ……」



 モワワワワーンッ!


 ぼくのなげきに呼応こおうするように、目の前に黄色いけむりが上がった。蛍光色けいこうしょくだから、はっきりと見える。


 状況じょうきょう整理せいりできず、ぼくはただただ呆然ぼうぜんけむりを見つめた。おそらくウミも同じだろう。


 煙は、段々だんだん大きくなっていき——。


「うわっ!」「きゃあっ!」


 ウミとぼくは、同時におどろきの声を上げる。

 もわもわの中から、魔女ウィッチ格好かっこうをした女性が出てきたのだ。


 女性は、ヒッヒッヒと笑い、

「いらっしゃませぇ〜!」

 と言った。


「……は?」「……はい?」


 またもや同じリアクションをするぼくとウミ。


 ここでようやく、


 パチンッ!!!


 明転めいてんした。


 目をこすると、そこにはBARのようなものがあった。カウンターがあって、背の高い椅子があって、シャレオツな照明しょうめいがあって。だが、カウンターの向こう側は、おなべ薬品やくひんがあって、まるで実験室じっけんしつのようだ。とても飲食いんしょく提供ていきょうしている店舗てんぽとは思えない。


 女性は、ステッキをくるくると回しながら言った。

「何よそのリアクション。ここは、れっきとした飲食店よ。まあ、ランチメニューは一つしかないけれど——」

 ウミに気が付いたのか、言いよどんで、目を丸くする女性。

 あわてた様子で、

「お、王女様……こっ、こんなところに……」


 ウミは、ドレスを整えて、上品じょうひんに笑った。

「ランチを二人分、お願いできますか?」


「も、もちのろんですっ!!!」

 女性は敬礼けいれいをして、急ピッチで鍋に薬品をぶち込み始める。


 ウミの力、すげえ……。

 改めてウミの権力けんりょくをひしひしと感じながら、ぼくは椅子に腰かける。

 この女性……いや、魔女さんには、色々きたいことがある。

「あのー」


「何ですかい?」


「魔女さん、さっきの一連いちれんのくだりって……」


「ギミックです、お客様に楽しんでいただきたくて。ちなみに、私は魔女ではなく、魔女見習いです!」


「なるほど……」


 隣に座るウミは「楽しかったー!」と満足まんぞくそうに言っているが、店員さんは内心ないしんビクビクしていることだろう。だってあれ、結構危険きけんだったし……。


 これはぼくの推測すいそくだけれど、入店時にゅうてんじに見たレストランっぽい風景ふうけいは、魔法ではないだろうか。ゆかがなくて、ひゅーっと落ちた先にあったのは、やわらかいマットか何かだろう。落下後らっかご、店員さんがマットを手早く回収かいしゅうして、けむりを出して、登場とうじょう……そんなところだろう。


 ドンッ!!


「へいお待ちっ!」


 テーブルに置かれたのは、カレー……に見えなくもない緑のドロドロとした何か。ところどころに紫色の何かがざっているのがわかる。


 うぇぇえ……。食欲しょくよくがれる見た目だ……。


 ぼくは、ウミに「どうする……?」と言おうとするも……。


「美味しいですっ!!!」


 ウミちゃんめっちゃ食ってるよぉぉおおおおっ!!!!!


 しかも美味いのかよぉぉおおおおっ!!!!

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