第26話 街路 〜二人で歩く異世界〜

 激動げきどう閣僚会議かくりょうかいぎが終わり、つか休息きゅうそくおとずれる。

 ぼくとウミの二人は、ランチを食べに、まちり出した。


 ウミは普段ふだん、城で三食さんしょくませているのだとか。だけど、ぼくに「この国のことを紹介しょうかいします!」と言ってくれたのだ。


 ……ということで、ぼくは今、四方八方しほうはっぽうをレンガづくりの建物たてものかこまれている。まさに、中世ちゅうせいヨーロッパの街並まちなみそのもの。

 異世界あるあるかもしれないけれど、日本に住んでいたぼくにとっては新鮮しんせんだ。でも、一方いっぽうでぼくはラノベ大好き人間でもあるので、どこか馴染なじみのある風景ふうけいという感じもする。

 そして、馴染みがあるのがもう一つ。というか、一つどころか何体もいる。ぼくらとすれ違うのは、たくさんの種族しゅぞく。種類が多すぎて、頭が追いつかないくらいだ。


 情報量じょうほうりょうの多い街路がいろで、ふと、ぼくの肩口かたぐち目線めせんを落とす。そこには、しろなドレスに身をつつんだ猫の耳と銀髪が特徴的とくちょうてきな美少女がいる。もちろんのこと、彼女はウミだ。

 ウミは昨日さくじつ浮世離うきよばなれした生活にも、いずれれると言った。確かに、らしていけば、そのうち慣れるのかもしれない。ぼくみたいな凡人ぼんじんには慣れちゃいけない世界なのかもしれないけれど、自然しぜんに慣れるのかもしれない。

 だけど——。

「ぼく、やっぱり慣れそうにないよ」


 ……し、しまった!

 心の中で思ったつもりが、ついつい口に出してしまった!


 ウミは、ぼくのつぶやきが聞こえていたらしく、

「何が慣れそうにないのでしょうか?」

 と首をくいっとかしげながら言った。


 すぐにでも言い返してやりたかった。そんなキミの仕草しぐさが、表情ひょうじょうが、眼差まなざしが、ぼくをこんなにも当惑とうわくさせているのだと。


 けれど、ぼくは話題をらすことにした。今この瞬間しゅんかんは、ウミがぼくにこの国を紹介してくれる、そのためにあるのだから。


「ウミは食べ物でいうと何が好きなの?」


 スパッ!


全般ぜんぱんです!」


「ぜっ、全般……? そうじゃなくてもっと、特別好きな食べ物とか——」


 スパッ!


「全般です!」


 二回もスパッと言い切るウミ。どういうわけだが、その顔は自慢じまんげだ。


 全般と言われてしまったら、どんな飲食店に行ったら良いかわからないじゃないか。そもそも、この世界に、ぼくの知っている料理も飲食店もないかもしれないけれど……。

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