第16話 唯一 〜あなただから〜

「リクさんが、唯一ゆいいつだったのです」


「ぼくが……唯一……?」


 ぼくの「どうしてぼくが選ばれたの?」という主旨しゅしの問いに対して、ウミは神妙しんみょうな表情で答え始める。


「私たちは、人間界から一人、介護のプロを連れてくるにあたり、条件じょうけんを三つ決めていました。一つは式の前にも言いました、介護の知識がある人です。そして次に求めたのは、人間界をてようとしている人。謳歌おうかしている人を連れてくることはすなわち、その人の幸せを略奪りゃくだつすることに他なりませんからね」


「……はは。確かに、ぼくは捨てようとしたね! 本当、馬鹿だよね!」


 ぼくが無理に冗談じょうだんっぽく言うも、一切笑わないウミ。どれだけセンシティブな話題なのかわかっているのだろう……。


 すらっと伸びた銀髪を、ウミは優しく手櫛てぐしする。


「この世界に、ローレライ王国に来てくださったからには、もう二度とそんなことはさせません」


「ありがとう、ウミ。嬉しい、嬉しいよ。でも、それだけじゃぼく以外にも同じような人はいそうなものだけれど……」


「そこで条件の三つ目なのです。三つ目は……」


「三つ目は……?」


「私のタイプの男性、ですっ!」


「え、ええぇぇええええっ!!!!」


 ぼぼぼぼ、ぼくがっ!?!! こんな美少女のタイプ??!!!!!???!


 にわかには信じがたい!!!!!!


「あのー、ウミさん? 冗談にしても、さっきのぼくの冗談並に笑えないですよ……?」


 言うと、ウミはほおをぷくっとふくらませた。ハリセンボンみたいで可愛い。


「冗談じゃありませんよ! ほど良い短髪、キリッとした目つき、すらっと伸びた鼻、小ぶりな口、細マッチョな肉体。通常はクール、寡黙かもくなイメージですが、ヲタの話、介護の話になれば、その人格じんかく一変いっぺんして、テンションアゲアゲのイケイケ男子になります。もはや、嫌いなところがないのです。好きが凝縮ぎょうしゅくされているのです!!!!」


 ……それマジ? ……そマ?

 生まれる世界がこっちだったら、ぼく、結構モテてた?

 そそそそそんなことはどうでも良い!

 どうでも良かっ!

 めちゃ重要なのは、ウミがぼくのことを好きだということ。

 それだけだ!


「ウミ!!!!」


 ぼくは、たまらなくなって、おさえられなくなって、はなれないように、離さないように、ウミをぎゅっと抱きしめた。


「リク……さん……」


「ぼく、介護革命、起こしてみせる。改革をしてみせる。どう見積みつもっても、ぼくにそんな力はないけれど、キミのためなら……ウミのためならっ! ぼくは、何だってできる。何だってやってやる!!」


「私もリクさんとなら、どこまでもいけそうです……」


 ウミの温もりを感じながら、ぼくは確信した。


 ローレライ王国は、最高の国になると——。

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