第15話 前進 〜よくぞ言いましたね〜

 盛大せいだいな結婚式と宣誓せんせいえたぼくは、ウミの真向まむかいの部屋で休息きゅうそくをとっていた。


最悪さいあくだよ……。その場のノリというか、いきおいだけで、とんでもないことを言っちゃったよ。確かに、それなりに介護の知識ちしきはあるつもりだけれど、革命かくめいだなんて明らかに言い過ぎちゃったよ……」


 コンコン。


 ノック音がぼくの耳に届く。


 ぼくがすかさず「はい、どうぞ」と返事をするも、


 コンコン、コンコンコンコン、ココココンッ!


 ノック音が返ってくるだけで、扉の向こうに立つ者は入室してこない。


 もう。誰のいたずらだ。


 ぼくは、わざわざ扉の前まで行って、ガチャリと開扉かいひした。すると、そこに立っていたのは、ケモ耳のよく似合う銀髪美少女、ウミだった。


「今、お時間いただけますか?」


 上目遣うわめづかいのウミの頼みを断れるやつなんてこの世界にいるのだろうか。


「うん、もちろん。入って入って」


「ありがとうございます」


 ぼくは、自然な流れでウミに椅子いすすすめる。

 ……よくよく考えてみたら、この豪華ごうかな部屋は、ぼくのものじゃない。それなのに、さも自分の部屋かのように、椅子を勧めるのは、冷静れいせいに考えるとめちゃダサい。と思っただけれど、今は冷静になってはいけない。異世界に来たこと自体がもう尋常じんじょうじゃないのだから。


 何はともあれ、ウミは話したいことがあるはずだ。

 ぼくは、これまた自然にベッドに腰かけてたずねた。

「どうかしたの?」


 そう訊くと、ウミは体をふるわせながら、


「先ほどのお言葉、最高でしたっ! 介護革命最高でしたっ!」


 と言った。心無こころなしか、顔が紅潮こうちょうしているように見える。


「……ううん、最悪だよ」


 ぼくは、立ち上がって、窓辺に向かう。そのまま、オレンジにまる街をのぞくように見下ろした。

 そして、ぼくは続けた。


「頑張るつもりだけれど、精一杯せいいっぱい頑張るつもりだけれど、結果がともわなかったらと考えると……」


「伴わなければ、また頑張るのみです! 私たちなら実現じつげんできます、諦めなければですが。それに、国民はよその国から来たリクさんに不信感ふしんかんいだいていると思うのです。あれくらい大きく出て、有言実行ゆうげんじっこうできたら、きっとリクさんを、わたしたちを認めてくれます!」


 ははっ。本当、ウミの前向きさには感心かんしんさせられるな。この子となら何だってできるかもしれない。嘘みたいな話だけれど、一緒にいたら力がみなぎってくる。


 ぼくは、聞きそびれていたことを思い出す。幸せをひしひしと感じながら、思い出す。幸せだからこそ、思い出す。

 

「……ウミ。どうしてぼくをこの世界に呼んだのかな?」


「え……? それは前にも説明したように、ローレライ王国の介護問題を解決するために——」


「この国の問題を解決するだけなら、ぼくじゃなくても良いだろう? いや、むしろぼくじゃない方が良い。ぼくよりも介護について詳しい人は山ほどいるんだから……」


 そう、何故ぼくなのか。それをまだ聞いていない。

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