第12話 直前 〜ドッキドキだね〜

 コンコンコン。


 ぼくとウミが介護について話していると、突然、とびらがノックされた。

 それと同時に、ぼくの心律動しんりつどう極端きょくたんにぐわんぐわんとみだれていく。

 ま、まさか……。


 ウミは、わなわなするぼくに気が付くことなく、返事をする。

「はい」


「ワシじゃ、ヴィシュヌじゃ」


「お父様でしたか、どうぞ」


「それじゃ失礼して」


 ガチャ。


 扉が開かれると、もちろんそこにはヴィシュヌさんの姿が。ぼ、ぼく、まだ心の準備ができていないのだけれど……。


 ヴィシュヌさんは、一歩だけ部屋に入って、顎髭あごひげでながら言った。


「結婚式の準備がととのった。早速さっそくだが来てくれるか」


「はいっ!」


 元気に答えるウミに緊張きんちょうの色は見えない。何という胆力たんりょく!!! 流石さすがは国王の娘!


 何事においても平均点へいきんてん以下のぼくにとっては、到底とうていリラックスできる状況じょうきょうではない。


 それにぼく、ジャージだし……。こんな格好かっこうじゃ結婚式には参加さんかできないだろうし……。どうにか先延さきのばしにして……どうにか延期えんきできないだろうか……。同じこと繰り返しちゃってるよ……。


「あのー……」


「何じゃ」


「ええっと……」


「式まで時間がない、何かあるなら、早く」


 うう、ヴィシュヌさんこわい……。めちゃ怖い。いやしかし、ここは勇気ゆうきしぼって!!


「ぼく、見窄みすぼらしい格好だし、その……今日の今日で服も見繕みつくろえないだろうし……。結婚式はまた今度にでも——」


「無理じゃ、式の用意に大勢おおぜいの者が動いておる。見窄らしくても良い、男なら腹をくくれ。おぬしは王女と結婚するのじゃぞ、しゃんとせい!」


「そうですよ、リクさん。これからもっと度胸どきょうためされるのですから、結婚の報告くらい、パッとやってしまいましょう」


 うう、ヴィシュヌさんだけじゃなく、ウミにまでかつを入れられてしまった。


 ……やるしかないか。うん、やろう。


「わかりました。行きましょう、式場しきじょうにっ!」


 コホンッ!


 ぼくがこぶしかかげると、ヴィシュヌさんが一つせきをした。


「その前に、タキシードに着替きがえるのじゃ」


 ズコーンッ! ドンガラガッシャーンッ!! ズゴゴゴゴーンッ!!!


 大胆だいたんにズッコケるぼく。ズッコケ具合ぐあいがどの程度なのかは、主張しゅちょうのうるさい効果音こうかおんのおかげで、読者様もさっしてくれたことだろう。


 そしてそして、無様ぶざまなズッコケ野郎やろうが言いたいことはただ一つ。

 

「着替え、あるんですね……」

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