第11話 別解 〜仕組みが全然違う

「どうして、合理的ごうりてきな介護を追求ついきゅうすることにしたのか。それは、介護を受ける側、つまりご利用者のためでもある……。けれど、そこには別解べっかいも存在する」


 ウミは、ぼくの言う別解とやらの意味を、おそる恐る質問してきた。

「その心は……?」


「その心は、国民がおさめたお金——言い換えれば、介護報酬ほうしゅうが、合理的な介護をできない介護事業所じぎょうしょにまで支払われている。この現状げんじょう打破だはしたいからだと、ぼくは思う」


「は、はあ……。えっと……へ?」


 よくわかりませんと表情でうったえかけてくる女の子、ウミ。その顔をずっと見ていたいから、律儀りちぎに説明したくないのだけれど、ここまで言ってしまったからには、ちゃんと教える責任せきにんがある。


「ウミ。ローレライ王国を維持いじ繁栄はんえいするためのいわゆる国の財源ざいげんはどこから得ているのかな?」


「国民からですが……それがどうかしたのですか?」


「じゃあ、その国民が受ける介護費は、誰が負担ふたんしてる?」


「それはもちろん、国民——」


「国は?」


「いいえ、介護料金は全額ぜんがく、国民負担になります……」


 やっぱり、ぼくの考えた通りだ。そうすると……。

 戸惑とまどいを見せるウミに、ぼくは質問を続ける。


「そもそも、この国では介護を受けている国民が少ないんじゃないのかな? だけど、介護を必要としている国民は多い」


「そうですね。働き手が少ないという問題もありますが……。高齢化率こうれいかりつから考えても需要じゅようはあるはずなのに、利用する者は少ないです」


「しっかり国民の声を聞かないと。介護費を全額負担できるほどの経済的けいざいてき余裕よゆうが国民にはないのかもしれないよ。もしそれが負の根源こんげんならば、すぐにでも国が大幅おおはば負担しないと、もうからない介護士をする者は増えず、介護を必要とする者が途方とほうれることになりかねない」


「なっ、なるほど……」


 本当なら、働き手不足ぶそくに対するアプローチである、健康寿命けんこうじゅみょうばすために、介護予防も推進すいしんしないといけないって話もしたかったけれど……。

 デリカシーのないぼくも、ケモ耳がしゅんとがったウミに、今ここで言うのは得策とくさくじゃないとわかった。


 それに、物事には順序じゅんじょというものがあって、ローレライ王国はまだ基礎きその部分が他にもなっていないような気がする。抜本的ばっぽんてきな見直しを要することになるかもしれない……。


 ぼくにも正しいやり方なんてわからないけれど、日本を一つのモデルとしてとらえても良いとは思う。


 いそがしくなりそうだ……。

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