第4話 開始 〜ローレライ王国の介護〜

「ローレライ王国の介護が始まるって……」


 ぼくは、誰に問いかけるでもなくつぶやいた。


 すると、ウミが、ぼくとヴィシュヌさんの間を取り持つように、


「立ち話のなんですから、お城までぜひいらしてください」


「お城? お城って、あの?」


 このみどりゆたかな草原からでもっすらと視認しにんできる、バカデカい城がある。ウミってもしかして……。


「ウミってさ、もしかして……もしかしてさ、王女様だったりしない?」


 くと、ウミは礼儀正しく、華麗かれいに一礼してみせた。


「そうです。実は私、ローレライ王国の王女です。ここまで言うとおわかりだと思いますが、お父様は国王です」


「そうじゃ」


 ウミが王女で……ヴィシュヌさんが国王……。

 普通なら唖然あぜんとするのだろう。でもぼくは、目を奪われるくらい美しい純白じゅんぱくのドレスのおかげで、何となくそうなんじゃないかと思っていたから、意外に冷静でいられた。


 ……本当の本当に冷静か? 目線を落とすと、ぼくのあしはぶるぶると震えていた。


 嘘です。めっちゃビビってます。ビビらない人なんていないと思います。めっちゃ怖いです。誰か助けてください。心優しい読者さん、どうかぼくを助けてください。


 ……いやしかし、この草原からお城までとてつもなく距離がある。


 さいわいなことに、空は青くき通っている。いわゆる快晴かいせいというやつだ。


 お散歩には適した天気だけれど、でもやっぱり……。


「お城まで遠すぎじゃないかな? ぼくの体力だと、多分途中で力尽きちゃう……」


 ぼくのなさけないうったえに、ウミとヴィシュヌさんは顔を見合わせて笑った。


 ぼくは、介護福祉士の資格も持っている、正真正銘しょうしんしょうめいの介護のプロだけれど、あの城まで移動いどうする体力は流石にない……。

 ああ、情けない……。


「そういうことでしたら、魔法で移動しましょう!」


 ウミは、ぼくに微笑ほほえみながら、快活かいかつに言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る