第16話 終わりを告げる春の星座たち☆

オサキさんはふわっと舞い上がり、あっという間にルシファーさんの顔の高さまで上昇しました。

10メートルくらい、随分な高さです。

下にいた時には気がつかなかったのですが、猫魔岳の封印が解けたことで、妖気に満ちた雲も薄らいでいました。

秘密の沼以外は、きっと晴れているんですね。

黒ずんだ雲も、何となく紅く夕日に染まっています。


あの時、keiさんの言う通りにねこねこ温泉でお湯につかり、家に帰れば良かったような気もします。

まぁ~、keiさんが命を落とす事は無いにしても、今はルシファーさんの手のうちにあります。

苦しい思いをして、危ない思いをして、keiさんは今何を思っているのかな。なんて、さめは感傷的に思ってしまったり。

keiさんが望んでいなかった窮地です。

でも、keiさんはここの場所に住み続けるだろうし、この場所は大好きなだから…

keiさんだって、戦わずにはいられなかったと思うのです。

きっと、keiさんだって勇気を振り絞って、戦ってるんだと思います。

なーんかね。

ん、さめも勇気が湧いてきた。

普段、味わうことのない窮地だからこその勇気なのかな。

心の内側がドキドキと激しく脈を打つのを感じました。



「さめ殿、これ以上近づけないようですね。それにしても強い魔術で守られているようです。」

「keiさんいましたね。ルシファーさんの肩で足をぶらぶら、呑気なものですね。」

ほんと子供じゃあるまいし、周りを眺めてニコニコしてます。

「オサキさん申し訳ありません。」

「いや手伝ってもらってるのは私どもです。怪我もせず元気にしてらっしゃる様子で良かったじゃないですか。」

オサキさんはさすが神使、慈悲の心で満たされています。

「keiさーん、何してるんですか!」

とりあえず、声をかけてみました。

「あっさめだ!さめっkeiに生意気してたことを、後悔させてやる!」

もう何を言ってるんだか(*- -)

「ルシファーさんっさめと九尾がやってきたよー。やってしまってください!」

もう勘弁して!

本当にみんなに申し訳ない。

ルシファーさんは呪文に集中していて、keiさんをチラリと見たものの、攻撃してくることはありません。

keiさんは、そんなルシファーさんを横目で見ると、非常持ち出し袋から何かを取り出し始めました。

何か投げてくる気なのか、インスタでもしようとスマホを探しているのか、とにかくワケの分からない人ですから...

「 keiさんの安否も確認できたことですし、一旦戻りますか?」

「そうですね、ここにいても仕方がありません。」

下では猫魔王さんがみんなを指揮しています。

きつねさんや妖怪さん達も頑張っています。

すぐそこ、胸のあたりまで登ってきてる妖怪さんもいます。

でも、その妖怪さん達もルシファーさんの魔法が発動すれば、魔術によってルシファーさんの手先となってしまいます。

本当に絶体絶命!

ここは一旦秘密の沼から撤退して、作戦を練るなり、誰かに助けを求めるなり、方法はあるのですが...

keiさんをここにおいてもいけません。



きゃー(゜O゜;)

えっ、keiさんの叫び声が辺りに響き渡りました。

「熱いー!」

後ろを振り向くと、ルシファーさんの背中から炎が吹き上げています。

「keiさん!」

オサキさんもびっくりして固まってしまいました。

keiさんは、まだ何かをしようとしています。

マントの襟につかまりながら胸元まで移動して、ルシファーさんの身体に何かを流し込みました。

その瞬間!

また大きな炎が、今度はルシファーさんの胸元から吹き上げました。

「 keiさんはカレー爆弾を使っている?」

でも、keiさんはあの辛いカレーに興味を持っていないどころか、見ただけで汗をかいていたような気がするんですが??

keiさんは敏感な辛味センサーを持っていて、辛いものを見ただけで汗が吹き出し、汗で濡れた髪の毛が鬼太郎の妖気アンテナのように立つんです。

汗もかいてないし、辛味センサーも反応していません!

どんな作戦なのか?とにかくルシファーさんは炎に包まれています。

その炎の中のルシファーさんの顔は、怒りに満ちてkeiさんをにらんでいました。

「きゃーっ怖いー!」

あっkeiさん落ちた!


1番上の胸のあたりにいた妖怪さんがkeiさんをつかみます。

けれどもkeiさんの勢いに、妖怪さんも一緒に落ちてしまいました。

次にいたきつねさんがやはり手を伸ばして2人をつかみましたが、一緒に落ちてしまいます。

次は妖怪さん、次も妖怪さん、次はきつねさん、どんどんと落ちてしまいます。

ほんとみんなに手を差し伸べられて、keiさんは幸せ者です。

「魔術のバリアが解けたようです。みんな、逃げなさい!」

おさきさんが辺りの変化に気づき声をあげました。

「いくか!」

「いきましょう!」

猫魔王さんもそれに気づいたようで、 keiさんのほうに向かって走り出します。

さめが役に立つか分かりませんが、猫魔王さんの肩に乗せてもらいました!

「早く助けてぇ~~~」

ルシファーさんから落ちてきて、きつねさんや妖怪さんやらぐちゃぐちゃになっていました。

でも、どうやらkeiさんは怪我もなく無事だった様子です。

「助けてって言うか、早く逃げて来てください!」

keiさんてば、ぐちゃぐちゃで訳がわからなくなってるのかな?


「貴様、裏切りやがったな!」

ルシファーさんは炎の中から慢心怒りをこめてkeiさんに唸っています。

「裏切ったわけではないのね。 」

狐妖がぐちゃぐちゃになっているところからkeiさんが顔を出しました!

「keiは最初からそのつもりだったもん。裏切るというよりも計ったということかしら~。」

何を呑気なこと言ってるんでしょう。

ルシファーさんは炎でもがきながらも、keiさんに速射系の攻撃魔法打ち付けてきました。

間一髪、オサキさんが間に入り、青い魔法の光をしっぽではね返しました。

猫魔王さんがそれを見て、ニヤリとしました。

「おっ、これって打ち返せるのか!」

keiさんの前にオサキさんが立ちはだかっているので、ルシファーさんは当たりかまわず、きつねさんや妖怪さん達に魔法を打ち付け始めます。

すると猫魔王さんがぴょんぴょんと飛び跳ねて、打ち付けてくる魔法を如意棒で打ち返しています。

あの体でもさすが猫です。すばやい身のこなしでドンドンと打ち返していきます。

「おおーみんな!カレー爆弾だ!今ならひょっとして効くかもしれないぞ。」

きつねさんや妖怪さんは一斉にその場を離れると、林の茂みに隠してあったカレー爆弾を投げ始めます。

「おお、効いてる!効いてる!」

カレーのかかったマントがどんどんと炎を上げて燃えていきます。

何か勝利が見えてきたような気がしました。

「お前のような下っ端魔法使いが、俺に逆らうとどういうことになるか...」

「逆らったわけじゃないよ、カレーうどんだもん。」

あーわけがわかりません!?

この会話を理解できる賢明な読者の方がいらっしゃたら、話の流れを教えでくださいませ(-_-;)


どーんと大きな波動が体を叩くように打ち付けてきました。

一瞬にしてルシファーさんを包んでいた炎が消え、上空から2人の男が降りてきます。

「また始まるのか?」

猫魔王さんが身を引き締める様子で言葉を発しました。

「一体何者でしょう?」

1人は中世の騎士のような姿です。もう1人は黒いタキシードを着た執事のような姿です。

「ルシファーさんの使い魔ではないでしょうか?」

「まったくキリがないな!」

猫魔王さんの言うとおり、また戦闘が始まるのでしょうか?

でも、あの2人からは戦意を感じられないのです。

いやっ士気を隠す魔術を知っているのかもしれません。

タキシードを着た男がルシファーさんに近寄り耳元で何か囁いています。

ルシファーさんは怪訝そうな顔すると後ろを振り返ります。

それまで気がつかなかったのですが、ルシファーさん達の後ろには馬車が止めてありました。

男に支えられルシファーさんは馬車の方へ向かいます。

「おいっ逃げるのか、お前の胸に刺さった刀を置いていけ、それは謙信の名刀だ!」

また猫魔王さんまで、そんな余計なことを!

ルシファーさんは振り向くと「名刀だかなんだか知らないが爪楊枝もならん。こんなものを刺されても痛くも痒くもないわ...」

そう言い捨て胸に刺さった刀を抜き取りこちらに投げ返しました。

抜き取った瞬間、ガクッと肩を落とし、よろけたところをみると大きなダメージを受けていたようです。

「相当なダメージだったみたいじゃ無いか、嘘つきめ!」

もう返してくれたんだからいいと思うんですが、猫魔王さんてば!

ひと言多いです。

ルシファーさんは「これで終わると思うな!」と捨て台詞をはくと、馬車に乗り込み西の方へ消えていきました。

それと合わせるかのように金沢峠のほうの暗雲が消え去っていきます。

「あっ、きつねさん達が金沢峠の封印のといてくれたんだ♪」

keiさんが嬉しそうにつぶやきます。

えっ!きつねさん達があの結界を(・・;)

タキシードの男がルシファーさんに囁いていたのは、金沢峠の封印のことだったようです。

「あの強い魔力の封印を、どうやってきつねさんたちに解いてもらったんですか?」

さめにはさっぱり見当がつきません。というよりもkeiさんの魔力やきつねさん達には、とても封印を解けるとは思えません。

なんかさめにはkeiさんが神々しく見えてきました。

「えっへん.内緒だよ。」

もうkeiさんてば。

「しかしkeiって、実はすげえええ奴なんだな。」

猫魔王さんはkeiさんの肩をつかんで豪快に笑っています。

「私は封印を解く秘密を知っていますぞ。」

オサキさんもきらきらと目を光らせて笑っています。

「うふふっ」

雲が切れると空は、もう藍色に変わり始めていました。

とてもきれいに晴れわたり、頭上付近には春の星座が輝いています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る