第8話 妖気をまとう秘密の沼

ぶおう!と音をたて、オサキさんは一瞬で50mくらいの高さまで舞い上がりました。

上昇する勢いで、頭上から流れてくる空気に体が押し付けられます。


さめです。

keiさんはまだ寝てます。

「さめ殿、しっかりとつかまっていてください!」

さめはいま、オサキさんの頭にしがみついています。

オサキさんの頭に乗せてもらい、秘密の沼の調査に出掛けます。

keiさんを子ぎつね君が見張ってくれる。と言ってくれました。

でも、何をするかわからないので、袋に入れて持ってきました。

その袋は、オサキさんが首から下げています。


「沼を時計回りに猫石、金沢峠、雄国山に向かいましょう!」

「オサキさんにお任せします。」

オサキさんの力で、周囲10mくらいは雪も風もありません

沼の周りの結界に近づくと、濃い雲が渦を巻いていました

でも、雲と言うよりも羊の毛のように、繊維が集まり渦を巻きあっているように見えます。

「妖気が髪のようになって渦を巻き、結界を作っているのです。」

その渦がすっぽりと尾根を隠し、壁のように内側の沼を隠しているのです。

ときどきオサキさんの力が結界に触れて、プラズマボールような赤紫色の閃光を放っていました。

「あの渦の中には入れないのですのね?」

「私の力でも無理です。あの渦の根元の力を絶つか、結界の薄い上空から降りるしかないでしょう。」

すっかり忘れていましたが、まだkeiさんは寝ています。

「さめ殿、あそこに稲妻が集まっているのが分かりますか?あの辺りが猫魔岳です。もうしばらくすると紫色に光る物が見えてきますが、それが猫石です。」


オサキさんの話によると、猫石には猫魔王が封印されていたそうです。

美しい女性に成りすまし、国に災いを及ぼした九尾の狐とは猫魔王のことだったようです。

猫魔王は安倍**に妖怪だとに見破られたとき、九尾の狐に化けて蝦夷の地に逃げ延びた。

しかし、その蝦夷の地でも人をさらう被害が起きはじめたために、朝廷が軍をさしむけて成敗したそうです。

猫魔王は致命傷になった矢の毒気にやられて、石になったそうです。

九尾の狐伝説に出てくる殺生石とは猫石だったようです。

「あの紫色の光が猫石です。昨日の昼頃にはまだ青く光る石の様子を見ることができたのですが…」

猫石になった猫魔王ですが、石になっても妖力は強く、猫を誘き出しては手下にして悪さをしていました。

それを見かねたら偉いお坊さんが岩を砕き、沼に沈めてしまったそうです。

その石の一部が今も残っていて、猫石と呼ばれているそうです。

さめはちょっと気になる話を聞きました。


オサキさんの話によると、この猫魔岳には妖力を抑える不思議な力があるそうなんです。

さらに金沢峠や雄国山にも、そのような力があるそうです。

そうです!

さめはあれと関係があるんじゃないかと思ったのです。

魔法の力を抑える和み石。


keiさんが火星に行ったときの日記を知らない人のため、簡単に説明しておきます。

和み石とは世界中に散りばめられた、魔力を抑える石のことです。

大昔のこと、野心に心を奪われた魔法使いが、魔力の強い使い魔を集めました。

そして世界を征服しようとしたのです。

ところが集められた使い魔たちは、魔法使いの言うことを聞かずに反乱をおこし、使い魔たちの世界を作ろうとした。と歴史書には記されています。

世界は争いごとの絶えない混沌とした闇に包まれてしまいました。

魔法使い使い魔戦争です。

そこへ一人の賢者が現れました。

賢者は争いごともなく、使い魔と魔法使いが幸せに暮らしていた毎日のことを、世界中に話して回りました。

賢者の努力が実り、双方が話し合いを始めたのです。

会議の席上で、あるいは街角で、しあわせに暮らしていた頃のことが語られるようになったのです。

そして賢者はひとつの提案をしました。

賢者が持っていた和み石を使って、双方の魔力を抑えようというものです。

賢者はどんな魔法も封じ込めてしまう。と言われる和み石の伝承者だったのです。

魔法使いも使い魔も、魔力が弱まってしまうのには抵抗があったようです。

けれども、以前のような平和で幸せな毎日を願って、賢者の任せることにしました。

お互いの誓いの証明として、賢者の提案を受け入れたのです。

賢者は和み石を砕き、世界中に散りばめました。

その後の石の所在は賢者も知りません。

一説によるとアサギマダラと言う蝶に運ばせたとも言われています。


簡単なつもりが、話が長くなってしまいました。

でも、よく分かってもらえたと思います。

ひょっとしたら、その和み石が猫魔岳にあるのかもしれません。

でも、3つあるというのはちょっとおかしいですね


「あれが猫石です。」

真黒な妖気の中に霞んで紫色に光るものがありました。

いかにも悪い気配の禍々しい光です。

「いったい何が起こっているのでしょう?」

「私の推測ですと、猫魔王が復活して実体を得ようとしてるのではないでしょうか?」

猫魔王が実体化すると、いったいどんなことが起きるのでしょうか?

さめは恐ろしくて、みぶるいしてしまいました。

やはり、金沢峠にも稲妻が集まっています。

雪が解けて暖かくなると、秘密の沼はお花畑になります。

keiさんに何度となく連れてきてもらいました。

この金沢峠から沼を見下ろすと、ニッコウキスゲという花で湿原が黄色く染まります。

keiさんのお気に入りスポット、さめも大好きな場所です。

いち早くこの騒動に終止符を打たなければなりません。

「さめ殿、ごらんください。一番強い稲妻がひかっている雄国山です。」

凄まじい数の稲妻が雄国山頂にむけてはしっています。

上からも下からも稲妻は走り、雄国山を破壊するかのような勢いです。

きっと、keiさんのお気入りのベンチは破壊されてしまってるでしょう。

そのベンチは山頂から300m手前にあります。

そこでkeiさんは沼を眺めながらお弁当を食べていました。

ひみつのぬまの見晴らしがよく、ベンチの足が壊れているのを石を挟んだりして座っていました。

「やだーっ」

あっkeiさんが目を覚ましたようです

雄国山が破壊されているのに気付いたのでしょう。

「早くへんな夢さめてー!」

へんな夢??

keiさんは、まだ寝ぼけているようです


「さめ殿、しっかりつかまってください!」

オサキさんは、そういうと雄国山を旋回し急上昇しました。

急に風向きが変わったようです。

右へ左へと風の隙間を縫うようにして上昇していきます。

オサキさんが傾いた瞬間に下のほうを眺めてみると。秘密の沼からたくさんの火球が公魚湖に向かって飛んでいます。

たぶん、あの光の一粒一粒がなんらかの妖体なのだ。と、さめは思いました。

「keiさん、動かないでください!」

オサキさんの叫び声!

突風が四方から吹き付けてくる様子です。

オサキさんは大きく傾くと、唸り声のような叫びをあげて急降下していきます

右からも左からも、ときには下から突き上げるような大きな波動がぶつかってきます

オサキさんは急下降したかと思うと、「keiさん!」と叫びました。

そして、その場に静止しています。

首から下がっていた、keiさんの袋がありません。

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