第33話 砂嵐

 5階層は砂嵐。

 これ以上砂を採られてはたまるかというダンジョンの意思を感じる。

 前は見えないし、目とか口の中に砂が入って、不愉快な事この上ない。

 服の中もジャリジャリだ。


「あんっ」

「悪い当たったか」

「ううんいいの。アザミとダリアだったら殺すけど」


 くそっ、視界が悪すぎる。


「ダリア、魔法で水を。ああ、水魔法は苦手だったな」

「そんな事ない。上級降雨魔法」


 ダリアの魔法は失敗した。


「無理すんな。失敗してるだろ。風で払いのける方が良いかもな」

「ごめんなさい。長時間は維持できないわ」

「使えない人ね」

「なんですって」


「まあまあ。砂で責められてイライラするのは分かる。とりあえず落ち着こう」


 水を撒けば良いのは分かっている。

 広い中全部を魔法でやるのは無理だ。

 一部分やっただけだとすぐに乾いてしまうだろう。

 俺が使えるのは初級水魔法だけだ。


 砂嵐が収まらない事には攻略も進まない。

 上手い手立てを考えないとな。


 ここはダンジョンであって砂漠ではない。

 広さには限りがある。


「とりあえず帰るぞ。参った、帰り道が分からない」

「アザミ、何とかしなさい」


 俺の影の中からアザミが現れた。


「正妻面、恰好悪い」

「あんた、なんでお父さんを風よけに使ってるの」

「師匠、怒ってない」


「怒ってないよ。アザミ、頼む」

「あっち」


 何とか街まで戻って来られた。

 方位磁針を作ろう。

 細い銅線にエナメルを塗って、鉄芯に巻き付ける。


「初級電撃魔法。これで良いはずだ」


 電磁磁石が出来て、鉄が磁石になる。

 方位磁針が完成して、一定方向を指す。


「お父さん、凄い」

「まあ、師匠ですし」

「師匠、天才」


 こんなのは小学生の理科だ。

 俺が次に向かったのは、樹の苗を扱っている所だった。


「乾燥に強い樹の苗をくれ」

「それだとこれ辺りだな」


「どうするの?」

「ダンジョンに持ち込んで道標にするんだよ」


 俺はダンジョンに樹の苗を持ち込んだ。

 これで目印を作って進もうというわけだ。

 なぜ樹の苗かというと、生きてない物で、ダンジョンが不要だと思う物は、ダンジョンに吸収されてしまう。

 樹の苗なら生きているから吸収されない。


 装備品も吸収されない。

 したがって樹の苗に案内札をぶら下げる事も出来る。


「よう、お前ら新しい商品だ。売り捌いとけ」


 俺は商売を任せている駆け出し冒険者を捕まえた。

 ガラスのスキーゴーグルとマスクと方位磁針を渡す。


「これ、凄い便利なんじゃ」


 方位磁針を見て、駆け出しが目を丸くする。


「使えない土地もあるが、まあ便利だな」

「どうやって作るんです?」

「製法は秘密だ。お前らに分かるとは思わないが」


 目はガラスのスキーゴーグルで、口はマスクで覆って出撃。

 他の冒険者にも装備を売って樹の苗の事を教えた。

 樹の苗の道標は着々と出来ている


「あれっ、樹の苗が食われてる」


 ベロニカが食われた樹を発見した。

 くそっ、ダンジョンは意地でも攻略させない気だな。


 俺達は樹のそばでしばらく待った。

 現れたのは1メートルはある緑色のサソリ。


「お前が犯人か」

「【聖剣】、とりゃあぁぁ」


 ベロニカの一撃でサソリは真っ二つになった。

 こうなったら樹に殺虫剤を塗ってやる。


 殺虫剤を塗ったら、サソリがおびき寄せられ、樹を食って全滅した。

 殺す用の樹を何本か植えておけば問題ないな。


 俺達は緑色のサソリを持ち帰った。

 買取所で見せると。


「こりゃあ、サボテンスコーピオンじゃないか」

「高いのか?」

「甲殻を燃すとな良い匂いがする。香水とかも作るらしい。高級品だ」

「大儲けだな」


 これは飯の種になりそうだ。


「これを金貨100枚で売れ」


 俺は駆け出しに言った。


「何かを塗った樹ですよね」

「サボテンスコーピオンに対する罠だ」

「売れるんですか?」

「サボテンスコーピオンは高級品だぞ。知らないのか」

「砂漠のモンスターまでは知りませんよ」

「とにかく売れ」


 樹の苗は売れに売れた。


 卑劣な工作に敵う物なし。

 ざまぁみろ。


 次に行ったら、ダンジョンが諦めたのか砂嵐はやんでいた。


「勝ったな。俺の勝ちだ」

「お父さん、何と戦っているの」

「ダンジョンとさ」


「師匠、恰好いいです」

「師匠、素敵」


「お父さんが恰好いいのは前からだから、でも凄いなと思う」

「ですね」

「うんうん」


「おだてても何も出ないぞ」


 とにかく、勝った事は確かだ。

 苦労したが、方位磁針も作れたし、得になったな。

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