第32話 砂漠

 ダンジョン攻略は5階層。

 砂漠だ。


 物凄く暑い。

 熱中症待ったなしだ。

 この暑さもこの階層の攻略が進まない原因の一つなのだろう。


 冷房装置を用意できれば良いんだけどな。

 魔法で対抗する手かな。

 ダリアは氷の魔法が苦手だと言ってた。


「初級氷魔法」

「涼しい。生き返るぅ」

「ですね」

「冷感」


 ただな。

 魔力使うんだよな。

 何か良い手はないだろうか。

 古典的な手法だと日陰を作るかな。


 だけど、日傘ぐらいでは、どうにもならないような気がする。

 そうか、ダンジョンは生き物だ。

 生き物ならば、熱を感知する器官があるはずだ。


 それで熱を調節しているはずだ。

 その温度センサーみたいな器官に火を押し付けてやれば涼しくなるはずだ。

 たぶん、天井だな。


「初級弱点看破魔法。あったあそこだ」


 魔法で探ったら天井にいくつか点が見えた。

 火を押し付けるのは難しい。

 しばらくしたら燃え尽きるしな。


 火の偽物と暑さの偽物を作るか。

 赤く塗った石に煙が出る様な幻影魔法を掛ける。

 見た目は暑そうだ。

 それに接着剤を付けて、温度感知器官に向かって投げる。

 やった、くっ付いたぞ。


「涼しくなった」

「ダンジョンも騙されるんだな。我ながら凶悪なスキルだ」


 この石を量産して、冒険者に売りつけてやろう。

 この階層の攻略がはかどるに違いない。


 敵が出て来た。

 馬鹿でかいサソリだ。

 3メートルはある。


 なんちゃらスコーピオンだろう。

 硬いのから、火を吐く奴まで色々といる。


 ベロニカが尻尾を切り飛ばして、頭に剣を突き立てる。

 こいつはザコだったようだ。

 特殊能力はないらしい。

 ただのビックスコーピオンだな。


「あっ」


 先頭を歩いていたベロニカの足が砂に沈む。

 流砂だ。

 俺はロープを投げてやった。

 みんなでベロニカを引き上げる。

 一人だから良かったが、全員が嵌ったら、危ないな。

 対策を考えねばなるまい。


 杖をついて歩くのが良い様な気がするが、もっと簡単に攻略出来ないものか。


「砂を全部ぶっ飛ばしたい気分」

「ダリアならともかく、ベロニカじゃ足元が精一杯だろう。待てよ、ダリア、でかい爆発を起こして砂を吹き飛ばせ」

「ええ。上級爆裂魔法」


 轟音がして砂が吹き飛ぶ。

 思った通りだ。

 石の床が現れた。

 流砂のあった所は床に穴が開いている。


 要は砂を排除すれば良いんだよな。

 砂が換金アイテムになれば良いんだ。

 ええと、たしか石灰と特殊な火山灰と水でローマン・コンクリートが出来るはずだ。

 これにこの砂漠の砂を混ぜたらどうか。


 いまこの街は建築ラッシュ、コンクリートがあれば工事も進む。

 砂も換金アイテムになる。

 良い事尽くめだ。


 俺達は一旦街に戻った。

 ローマン・コンクリートを作る為だ。


「邪魔するよ」


 俺は錬金術師の工房を訪ねた。


「いらっしゃい。ポーションかい?」

「いや、製法を売りに来た」

「レシピを売ろうってのかい。門外不出にすれば、儲かるのに。怪しいね」

「見ての通り俺は冒険者みたいなもんだ。錬金術はお門違いさ」


「まあいいさ。じゃあレシピ料は出来高払いにするよ。商品が売れたらその分だけ払う」

「おっ、良いね。このレシピには自信があるんだ」


「じゃあ言ってみな」

「石灰と火山灰と水を混ぜると固まる。ただし、火山灰の性質による」

「研究してみろって言うんだね。陶器やレンガに火山灰を入れるレシピは試した事がある。火山灰のサンプルも揃っていたはずだ」

「たぶん上手くいくはずだ」


 次の日、工房を訪ねると。


「出来たよ。ちゃんと固まった。まだ乾ききっていないが、強度は十分だ」

「レシピ料はあれで良かったのか」

「こんな事もあるさ。簡単すぎるレシピだったから、詐欺だと思ってたよ。見抜けなかった俺が間抜けなだけさ」

「かさを増す為にダンジョン5階層の砂を使ったらどうかと思うんだ」

「いいね。ダンジョンならしばらくすれば補給されるだろう。無限に採掘できるってわけだ」

「その通りだよ」


 錬金術師にアイデアを売ったら、次の日には試作品が出来ていた。

 まあ、混ぜるだけだからな。

 火山灰の性質さえ合格なら、ちゃんと固まる。


 5階層は砂の採掘場になった。

 砂が排除される日も遠くない。

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