第31話 麻薬

 悪党らしく、強奪しないとな。

 俺は麻薬の密売組織を狙ってた。


 差し入れからの、強奪コンボ炸裂。

 見事金を奪ったが、このままでいいのか少し疑問だ。

 賭場なんかは存在がギリギリ許されると思っているが、麻薬は駄目だ。

 よし、徹底的に潰そう。


 売人の中で麻薬中毒の奴に俺は仲間だと信じ込ませた。

 顔は幻影魔法で別人に変えてある。

 組織を手繰って、畑に案内させた。


 そこで除草剤の袋に高級肥料と書いて納入した。

 さて、どうなったか。

 俺は森の奥深くを切り開いた秘密の畑に行った。


「あー、アジュガか。ここんところ麻薬の原料の草が枯れてみんなピリピリしてる。何者かの妨害工作だと思うんだが、分からない」


 麻薬組織では俺はアジュガと名乗っている。


「ちょっと見ていいか」

「ああ」


 俺は草の様子を見るふりをした。


「肥料不足だな。それと種がしいななんじゃないかと思う」

「凄いなお前」

「任せろ」


 種の貯蔵庫に入った。

 俺は水を撒いてカビの菌を散布した。


 そして、除草剤を肥料と偽って納入した。


「また来る」

「おう、待っているよ」


 これだけだと、根絶は難しい。

 俺はポイントシステムを使う事にした。


 売人を捕まえるとポイントがもらえるようにしたのだ。

 駆け出し冒険者でも売人には勝てる。

 そして幹部のリストを作り、高ポイントを約束した。

 中級冒険者に出張ってもらう為だ。


 麻薬組織はどんどん人を減らしていった。

 麻薬の生産能力も落ち、もはや風前の灯だ。


 止めを刺すか。

 ベロニカ達を壊滅作戦に誘った。


「麻薬は許せないわ」

「そうですね。退治してしまいましょう」

「麻薬根絶」


 麻薬組織のアジトに酒を差し入れした。

 もちろん痺れ薬入りでだ。


「いい具合に痺れてるな。お前ら逮捕だ。懸賞金が美味しいな」

「手下はみんな縛っておいたわ」


「あれっ、ボスがいないな。逃げたか?」


 俺のスキルが効かなかったのか。


「よもや、組織を壊滅させられるとは」


 魔人が出て来た。

 お前誰だ。


「何か分からないが、こいつが黒幕のようだ」

「【聖剣】、てりゃゃあ」

「上級拘束魔法」

「【絶対貫通】、そい」


 俺の出る幕はないようだ。


「くっ、やりますね。出でよアンデッド【暗黒召喚】」


 ゾンビやら、スケルトンやらがわんさか現れた。

 ちと、分が悪いか。

 ベロニカ達も奮戦しているが、召喚が途絶える事はない。


 アンデッドじゃ毒は効かない。

 幸い聖水は持っている。

 足洗い場を作るのに必要だからな。


 俺はありったけのカップを出した。

 そこに聖水を注ぐ。


 布に居酒屋ムスカリと書いて壁に貼る。


「さあ、喉が渇いたでょ。飲みねぇ、飲みねぇ」


 アンデッド達が聖水を飲んで浄化されていく。


「おっと、お客さんが多過ぎだ。勝手に注いで回し飲みしてくれ」


 アンデッド達が浄化されるスピードが上がる。


「お前は何なんだ?」

「俺はただの踏み台だよ」


 アンデッドの盾が無くなったので、ベロニカ達が魔人に攻撃する。


「【聖剣】、このこのこの」

「上級火炎魔法」

「【絶対貫通】、とりゃゃあ」


「魔王様、申し訳……」


 魔人が死んだ。

 俺は麻薬の製法が書かれた物を手に入れた。

 そこには、邪気を注ぐと書いてあった。

 じゃあ、魔人がいなければ、もう麻薬は出来ないのか。


 ひょっとして中毒者に聖水を飲ませたら良くなるんじゃ。


「ベロニカ、浮浪者に中毒者はいるか?」

「いるわよ。結構な数がね」


 よし、実験だ。

 中毒者に聖水を飲ませようとしたが、暴れて手がつけられない。

 邪気が反応していると思われる。


 俺は麻薬と書いた瓶に聖水を入れた。

 それを中毒者の前に置くと、中毒者はごくごくと聖水を飲んでのたうち回る。

 しばらく見ていたら静かになり、憑き物が落ちたような顔になった。


 上手くいったな。

 となれば。

 俺は聖水を麻薬と偽って売りだした。

 中毒者は元に戻った。


「聖水を麻薬と言って売るなんてジョークが効いているわね」

「冗談のつもりじゃないんだけどな」

「聖水の瓶詰め、量産してみない。教会に高値で売りつけてやるわ」

「でも教会はへこたれないだろうな。さらに高値で中毒者に売る光景が目に浮かぶ」


「大丈夫よ。中身は聖水だって暴露するから。そうしたら、正気に戻った時に値段が高かったら文句言うでしょ。評判を気にしたら高値では売れないはずよ」

「悪党だな」

「ええ」


「悪党なのは気に入ったよ。よし、高値で送りつけてやれ」


 麻薬で儲けている魔人が頭を抱えるといいな。

 人助けは柄じゃないが、嫌がらせは大好きだ。

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