第30話 病気見舞い

 ストックがまた来やがった。


「病気だと聞いたが、元気だな」


 ああ、グランドマスターに病気だって診断書を出したな。

 くそっ、この窮地を逃れるには?


「結婚したんだ。新婚なんだ、帰ってくれ。分かるだろ」

「おめでとう。奥さんにもおめでとうを言いたい。どこにいる?」


 こいつ、厄介だな。

 何が厄介かというと、結婚話を信じるのは良い。

 それは卑劣な工作の範疇だからな。

 だが、それが何で奥さんに挨拶したいになるんだ。


 病気もそうだ。

 病気を信じたら、お見舞いになど来ないだろ。

 踏み台だぜ、俺は。


 仕方ない。

 ベロニカ達3人を奥さんに仕立てよう。


「ついて来い」


 浮浪者を住まわせている住宅に行った。


「もう顔は知っているな。女房のベロニカだ」


 俺はベロニカに目配せした。


「家内のベロニカです」

「結婚おめでとう」

「ありがとう」


「さあとっとと次に行くぞ」

「次ってなんだ?」

「女房は3人いる。俺はまだ貴族だからな。複数の妻が持てる」


 呆れたようなストックの顔。

 俺だってこんな事はしたくないんだよ。

 苦し紛れに考えついたのがこれだったんだ。


 ダリアがいる宿に行く。

 ベロニカもついて来た。

 ちょっと嫌な予感。


「ダリア、いるか」


 アザミの部屋の扉をノックして声を掛ける。


「はーい、入って」


 部屋に入る。


「もう一人の女房のダリアだ」


 やはり目配せする。


「結婚おめでとう」

「ありがとうございます」

「よし次だ」


 アザミはギルドにいたはずだ。

 やっぱりベロニカとダリアもついてくる。

 ギルドに行くとアザミは依頼を物色してた。


「最後の女房のアザミだ」


 ここでも目配せする。


「結婚おめでとう」

「嬉しい」


「正妻は誰?」


 ベロニカ、お前それを言う為についてきたのか。


「決めて頂かないと」


 ダリアお前もか。


「私?」


 やばい、喧嘩が始まりそうだ。


「ストック、見て分かるだろ。3人が譲らないんだ。それで少しごたごたしてる」

「大変だな」


 にらみ合う3人。

 どうする。

 どうやってこの場を収める。


「くじ引きだ。くじ引きで、正妻の順番を決める。一日交代だ」


 ふう、どうにか収まった。

 いや、収まってないぞ。

 たぶん今夜一緒にとか言い出すぞ。

 睡眠薬を一服盛ろう。

 もうそれしかない。


 くじで順番を決めた。

 今日はダリアだ。


「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」

「おう」


 ベロニカとアザミが悔しそうだ。


「グランドマスターには事の次第を伝えておく」

「おう」


 色々とやばい。

 一巡までは薬でなんとかできるが、二巡目は引っ掛からないような気がする。

 ならば、一巡したら、離婚だ。

 どんな理由でだ。


 どんな理由を言っても、直してきそうな気がする。

 待てよ。

 卑劣な工作で離婚届けにサインさせりゃ良い。

 新居購入の契約書だとか言えばサインしそうだな。


 幻影魔法を使えば問題ない。


「ダリア、二人で飲もう」

「ええ、あなた。お付き合いします」


 個室がある酒場に行った。

 俺は離婚届けを書いた。

 そして幻影魔法を使う。


「新居を探して来たんだ。サインしてくれ。もちろんベロニカとアザミは別々に住む。二人の愛の巣だ」

「愛の巣。嬉しいです。どこにサインすればいいですか」

「おうここだ。ここに名前を書くだけで良い」


 そして、サインしているダリアの隙を見て、酒に睡眠薬を垂らした。


「愛の巣に乾杯」

「乾杯……」


 ふっ、寝たか。

 ベッドに運ぶのがめんどくさいが、仕方ない。

 宿に放り込むとしよう。


 後の二人も同じように対処した。

 そして二巡目。


「お前達、離婚だ」

「酷い」

「そうです。酷すぎます」

「残酷」


「もうお前ら離婚届けにサインしちまったんだ」


 俺は離婚届を見せた。


「破壊」


 アザミが離婚届を奪って引き裂く。


「無駄だ。さっきのは写しだ。原本は分からない場所に保管してある」

「結婚届けを出してないから無効です」


 語気を強めて言うダリア。


「良いのか。一生籍に入れないぞ」

「でも、離婚届けがあるんじゃ、どのみち無理よ。内縁の妻でもいい」


 ベロニカが食い下がる。


「今回の婚姻話をなかった事にしてくれるなら、離婚届をなしにしてやろう」

「くっ、屈辱」

「仕方ないわね」

「仕方ありませんね」


 ふぅ、なんとかなった。

 またストックが来るような気がする。

 俺が踏み台だからか。

 いや、あいつが特殊なだけだ。

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