第28話 ポイント

 ひたひたと、後ろをつけてくる音がする。

 一人じゃない。

 10人はいるんじゃないか。


 恨みは買いまくっている自覚はある。

 ふはは、返り討ちだ。


 適当な路地に入る。

 前も塞がれて、後ろも塞がれた。


「言っとくが、辞めるなら今のうちだぞ」

「景気が良いって話だから、有り金置いていってもらおう。これから毎日な。がはははっ」


「仕方ない奴らだ」


 納品に行く予定の油の付いた鉄球を転がした。


「そんな見え透いた罠に」

「ぐわっ、足をくじいた」

「ドジにもほどがあるだろ。目が付いているのか。ぐわー」


 男達がみんな転がったので、俺は全員殴って気絶させてやった。

 懐を漁って財布を巻き上げる。

 むっ、黒い水晶みたいなのを持っているぞ。


 何だか気色悪いな。

 触らないでおこう。

 黒い水晶から煙が出て男達を包み込む。

 男達がもがく。

 そして動かなくなった。

 男達は死んだようだ。


「おい、どうした」


 騒ぎで無関係の人間がやって来た。


「ひっ、呪いだ」


 俺はわざとらしく慄いた。

 呪いかどうかは知った事じゃない。

 無関係を装うのが最善だ。


 ほどなくして、警備兵がやってきた。


「俺がきた時には死んでたんだ。たぶん呪いだと思う」

「ほう、解呪師を呼べ」


 解呪師がやってくる。


「初級解呪魔法。呪いだね。このままだとアンデッドになる」

「よく知らせてくれた。協力を感謝する」

「いいよ。通報は市民の義務だから」


 俺はしれっとそう言った。

 冒険者ギルドに寄ると、冒険者の懐を狙った事件が多発しているらしい。

 俺だけじゃないようだ。

 あいつらも恨みは口にしてなかったからな。

 怨恨の線はないと思っていたが、そんな事になっているとは。


 俺は冒険者を集めた。


「聞いての通りで冒険者が襲われている。でだ、対策としてすっからからんになっちまおう」

「使っちまえというのか」

「そうだ」


「だがよ、使っても奴ら諦めないぜ。装備を剥がされた奴もいるんだからな」

「そこでだ。賭場で全財産を使うんだよ。そうすればやつらも諦める」

「それじゃ明日から暮らしていけない」

「賭場で使った分はポイントとして、俺が預かっておいてやろう。ポイントで俺が提供する道具が貰える」


 ポイントに価値なんかない。

 詐欺かといえばそうでもない。

 ポイントで実際に道具は提供する。

 賭場の金は強奪するつもりだ。


 これの美味しいのは、冒険者が死んだらポイントが無くなる事だ。

 まる儲けになる。

 死ななくても他所に移ったり、引退しても同じ事だ。


 駆け出しはおのれの身を守れないから多数参加した。

 賭場で派手に金をする場面を目撃させたら、襲撃は止んだ。


 中級冒険者までもが加盟してくれる事になった。

 毒餌の類を使うと武器防具は要らない。

 駆け出しの収入が上がって、加盟者はますます増えた。


 俺の所に襲撃者が集中したが、そんなのは織り込み済みだ。

 余裕で返り討ちした。


 心は痛まないが、返り討ちした奴全員が呪いで死んでいくんだよな。


「お前、奇妙な商売始めたらしいじゃないか」


 ギルドマスターに言われた。


「ポイントをチャージしてもらって罠に交換してもらっている」

「お前、あくどいな。証券の類じゃないから、ある日突然、無くなっても訴えられない」

「そんな、事はしないぞ。したらギルドを首になりそうだからな」


「そうだな。襲撃者はまだ来るか」

「いいやネタ切れになったらしい。ここんところ来ないな」

「襲撃者を調べたが、精神魔法で操られている。詳しく調べたかったが、呪具をもっているのですぐに死ぬ。何か思い当たる節はあるか?」

「いいや。しいて言えば、領主の所が襲撃されたのと同じ根っこのような気がする。魔族だな」

「魔族か? 厄介だ。何で冒険者を狙うと思う」


「そりゃあ、ダンジョン制覇が嫌なんだろう。スタンピードを起こしたいのだと思う」

「この街を死の街にして、拠点にするつもりだな」

「まあそんな所だろう」


「制覇すれば、魔族は諦めると思うか?」

「いいや、大元の魔族をやっちまわない限り、戦いは続くと思うぜ」

「Sランクが3人集まったのが、僥倖ぎようこうだろうな」


「沢山、上級冒険者を呼んでおいた方がいいぜ。そんな予感がする」

「分かってる。だが、SランクやAランク依頼がそんなにないのだ。依頼がないのにこの地に呼ぶ事はできん」


「学校を作ったらどうだ。現役は無理でも引退した奴らなら呼べるだろう。ギルド職員で採用すれば、いざという時の保険にはなる」

「予算を何とかしないとな。たぶん見込み薄だな」

「ちょっと待ってろ」


 ベロニカ達3人を呼んだ。


「ダンジョンの利権で金が入っているよな」

「ええ」

「推察通り」

「ですね」


「学校に投資してみないか。お前らも引退したら、食い扶持を稼げるぞ」

「ええー」


「分かった褒美が欲しいんだろ。仕方ないな。マッサージしてやろう」

「やった」

「滾る」

「まあそれなら」


 マッサージがそんなに良いのか。

 気持ちいい事には変わりないけどな。


「予算はなんとかなるぞ」

「恩に着る。学校が出来る前に講師だけでも集めるとしよう。理由さえあれば容易い。でないと痛くもない腹を探られるからな」


 引退したら、学校には俺も雇ってもらおう。

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