第25話 サキュバス

「ねぇお兄さん。私と遊ばない」


 うん、色っぽい美女。

 美人局か、犯罪組織の手下か、まあどっちかだな。


「アザミ、身ぐるみを剥がそう。飲み代ぐらいにはなるだろう」


 アザミが現れて一瞬のうちに美女の意識が刈り取られる。

 おっ、美女の尻に尻尾が生えてやがる。

 見た事は無かったがサキュバスという奴だな。


 じゃあ、遠慮は要らないな。

 喉を掻っ切って、懐の財布を漁る。

 しけてんな、金貨がない。

 銀貨2枚と銅貨8枚か。


 服はそれなりに良さそうだから、銀貨2、3枚は行くかもな。


 安酒ならこのぐらいでも十分だが。

 葡萄酒が飲みたい気分だったのに。

 収納鞄に死骸を入れる。


 サキュバスは珍しいから、死骸が高く売れたりしてな。

 待てよ、街に入り込んでるサキュバスがこれ1匹とは限らない。


 俺は娼婦が立ってそうな場所を歩いた。


「ねぇお兄さん。私と遊ばない」


 来た来た。


「アザミ」

「了解」


 美女が昏倒する。

 やっぱり尻尾がある。

 止めを刺して、収納鞄に死骸を入れる。


 おー、この分だと今日は火酒が飲めるかもな。

 何だか楽しくなってきた。


「ねぇお兄さん。私と遊ばない」


 入れ食いかよ。

 あれっ、昏倒した美女に尻尾がない。

 何だ美人局か。

 紛らわしい事をしやがって。


 やる事はほとんど一緒だけどな。

 財布取り上げて、服を脱がして、下着は勘弁してやろう。


 よし、次行こう。


「ねぇお兄さん。私と遊ばない」


 あー、中学生ぐらいの少女なんだが。

 俺は後ろに回って尻尾の辺りを握った。

 くそっ、サキュバスかよ。

 慌てて喉を斬る。


 ふぅ、全く、油断がならない。

 おっ、財布が重い。

 金貨が4枚もあるぞ。


 まあ、なんだな。

 そういう事だ。


 金も出来たし、酒場に行こう。

 ギルドにはサキュバスの警告をしておかないと。

 警告はアザミに任せて、ホクホク顔でギルド酒場の椅子に座る。


「お姉さん、葡萄酒、一番高いの。それと火酒の良いのを」

「はいよ」


「ねぇお兄さん。私と遊ばない」


 おいおい、ここはギルドの酒場だぞ。

 人目もあるどうしよう。

 そうだ。


「まあ座れ。酒を奢ってやろう」

「それより良い事しようよ」


 怪しい。

 座るのを勧めたのは、椅子に座ると尻尾が背もたれで邪魔になるからだ。


「そうか」


 俺は立ちあがり酔って足がもつれたふりをした。

 しゃがんだ状態から、アッパーカット。

 酔っぱらったふりアッパー。

 この必殺技は前世で先輩が使っていた技だ。

 嫌な奴と飲みに行った時、酔っぱらったふりして殴ってしまうという技。

 『すまん、手が滑った。うぇっぷ』までがテンプレ。

 吐くふりをして逃げてしまうというおまけ付きだ。


 美女はノックアウトされて、尻尾が出た。

 俺は止めを刺す。


「おい、悪徳教官が娼婦を殺したぞ」

「よく見ろ。こいつはサキュバスだ」

「本当だ。街にモンスターが入り込んでたのか」

「お前ら、美女から誘われたら、背もたれのある椅子に座らせろ。判別できるから」

「女を疑って抱けないなんて、世も末だな」


「椅子がない時はどうしたら良いんでぇ」

「ちょっと待ってろ」


 俺は厨房に入って小麦粉を分けて貰った。


「これはサキュバス判別粉だ。お尻の辺りに振りかけろ。正体が分かる」

「ロングスカートを穿いていたら?」

「触っちまえよ。娼婦なら尻を触られたぐらいで訴えたりしない」


「じゃあ堅気でロングスカートだったら?」

「宿に行ってから触れば良いだろう」

「それもそうだな」


「気をつけろよ12歳ぐらいのサキュバスもいる」

「おお、それは気をつけないとな」


 こいつロリコンか、近づかないでおこう。

 おー、酒が来た。

 サキュバスの上前はねて飲む酒が。


 くぅ、美味い。

 この葡萄酒最高だな。


「ねぇお兄さん。私と遊ばない」


 またか。

 顔を上げるとアザミだった。


「まあ座れよ」

「ええ」


 これは酔いつぶれる事が出来ないな。

 もっとも、敵が多いから、普段そんな事はしない。


 むっ、酒の味が変わった。

 アザミの奴、薬を入れたな。


「初級解毒魔法」

「ばれた」


「味が変わったらばれるだろう。悪い奴め」

「悪だくみ。至高」


「まあそうだな。悪だくみは正しい。死ぬぐらいなら、悪だくみして生き延びないとな」


 サキュバスも魔族の仕業だろう。

 やつらの攻撃は激しくなるんだろうな。

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