第24話 誘拐騒ぎ

「よく来てくれた」


 領主に歓迎された。

 今回、領主に会いに来たのは、細かい打ち合わせという名の親睦会パーティ。


 みんなSランク冒険者とよしみを通じたいらしい。


「ようこそ、お姉さま方」


 領主の娘であるプロテアの、俺を見る目つきは相変わらずきつい。

 嫌われるのには慣れている。

 どうってことはない。


「お招きありがとう」


 ドレスを着てカーテシーを披露するベロニカ。


「どういたしまして」


「今回はプロテアちゃんにお土産があるの」


 とダリア。


「まあ何かしら?」


「エルダートレントの杖よ。魔法を習うのに最適だわ」

「ベロニカお姉様、ダリアお姉様、教えてくださる」

「ええ」

「もちろん」


 ベロニカとダリアとプロテアが別室に移動するようだ。

 アザミはというと部屋の隅に気配を殺して立っている。

 こういう場が苦手なんだろうか。


「まあ、何だ。トラブルもないようでつまらんな」

「ムスカリ君、君は何を目指しているのかね。真意が分からんのが不気味だという人が多くてね」


 そう領主が言う。


「生き残る事かな」

「冒険者の死亡率は高いからね。それで教官になったというわけだ」

「まあな。それに、ギルド職員の肩書は悪事を働くのにちょうど良い」


「不思議なんだがね。君が教官になってから、この街の冒険者の死亡率が低い。浮浪者の数と死亡率もだ」

「偶然だろ」

「そうかな。最近は犯罪組織も大人しい。派手な悪事を控えているようだ」


「俺には関係ない」


「実家と便りの行き来はあるのかい?」

「ないな」

「手紙を出すと良い。ご両親も安心されるだろう」

「余計なお世話だ。出しても、気分を悪くするだけだろう」


「親は何時でも子供が心配なものだよ」

「気が向いたらな」


 もう帰ろうか。


「アザミ、帰るぞ」

「歓喜、承諾」


 アザミと二人でエスケープする事にした。

 帰る途中、使用人にすれ違う。


 血の匂いがした。


 全く、無粋な奴らだ。

 でも娯楽を提供してくれるという事では良いかもな。


「アザミ」


 アザミは無言で頷いて、使用人の後を追う。

 俺はパーティ会場に戻った。

 侵入するなら、ドアか窓だな。

 俺は窓にクサビを打ち込み始めた。


「事情把握」


 耳元で囁かれた。


「アザミか?」

「プロテア誘拐計画」

「なるほどな。これだから、表で金持ちになるのは嫌なんだ。ハエがブンブン飛び回るからな」


 窓を全て開かなくした。

 灯りが一斉に消える。


「きゃあ」

「何だ。何が始まった」


 始まったか。


「アザミ、閃光弾はあるか?」

「ある」


 俺は閃光弾を手に取り火を点けた。


「こっちを見ろ」


 閃光弾が眩い光を発する。


「ぐわっ」

「ぎゃ」


 パーティ会場の全員が目をやられた。


 俺は灯りを付けると、突然の事に狼狽えている黒ずくめの男達を殴った。

 アザミは目をやられているのに、的確に誘拐犯を排除していく。

 不殺のアサシンの面目躍如といったところか。


 プロテアがいる別室に入ると黒ずくめの男達がのされていた。

 Sランクが二人もいたら、そうなるよな。

 俺の行為は余計だったか。


「プロテア、無事か!」


 領主が別室に飛び込んできた。


「お父様」

「おお、無事で良かった」


「後で、請求書を送る。もちろんベロニカの名前でな」

「このゴキブリ男が、お金を横取りするつもりね」


「俺も働いたぞ。パーティ会場の被害を抑えた」

「それはアザミお姉様がやったんでしょう」

「8割方な」


「感謝している。お金は後で払うが、ギルドに依頼したという形をとらせてもらう」

「まあ良いだろ。さてと黒幕は誰かな」


 俺は伸びている男に活を入れると、くすぐり始めた。


「うひゃひゃ、辞めてくれ。だのむ」

「黒幕は誰だ」


「薄気味悪い男だ。顔は分からないが金払いは良かった。ぐがっ」


 男は血を吐いて死んだ。

 他の伸びている男も同様に死んだ。


「下がって!」


 ベロニカが警告する。

 死骸からミミズの親玉のようなモンスターが現れた。

 ベロニカがモンスターの頭を斬り飛ばした。


 モンスター使いの仕業か。


「関係あるか分からないが、ダンジョンの攻略を辞めろと脅迫状が届いている」

「たぶんそれだな。制覇を辞めるとモンスターがスタンピードを起こす。それで得をする人間なんかいるのか?」

「いないわね。魔族ぐらいしか」


 魔族の仕業か。

 きな臭い事だな。

 この街が戦場になるような気がする。

 あー、やだやだ。

 俺は平穏に生きたい。

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