第23話 トレント

 3階層に突入。

 酒場の冒険者が言ってた通り、大木が生い茂る森だ。

 この木のいくつかがトレントらしい。

 俺は松明たいまつに火を点けた。

 木に松明たいまつを押し付ける。

 燃やそうとしたわけじゃない。


 生木はそう簡単に燃えない。

 火が燃え移る前に押し付ける所を変える。

 6ヶ所ほどやって次の木に移った。


「何しているの?」

「根性焼きだ。トレントだって痛覚はあるだろ。火を何ヵ所も押し付けられたら正体を現すさ」

「森の木を全部やるつもり?」

「確かに時間が掛かるな。おい、そこの冒険者」


 俺は通りかかった冒険者を呼び止めた。


「何だ?」

松明たいまつをやるから、木に押し付ける仕事をしないか。金なら払うぞ。トレントが出て来たら大声で呼べ」

「鳥はどうするんだ」

「毒餌を用意した。適当にばら撒け。ただしこっちは有料だ」

「金とるのかよ」


「この仕事の美味しさはそれだけじゃ終わらない。焼き印をつけた木を後で切り倒すんだよ。銘木は高く売れるぞ」

「本当か?」

「今、街はダンジョンが出来て建築ラッシュだ。ダンジョンから木をいくら持ち出そうが、値段は下がらない」

「この厄介な木が宝の山に見えてきたぜ。こうしゃいられない。収納鞄を借りて来ないと」

「頑張れよ」


 俺はせっせと毒餌と松明たいまつを作る作業に没頭した。

 木は次々に伐採されていく。

 トレントが出るとベロニカ達が駆け付け討伐していく。

 鳥は毒餌でみんな飛べなくなった。

 肉が採取できないのは損だが、羽だけでも黒字にはなる。


 切り株だらけになると、新たに召喚されるトレントは目立った。

 こうなるとモンスターの養殖場だな。

 普通の木も召喚されるのだが、普通の木は伐採されて、トレントは根性焼きされて正体を現した。


 そろそろ良いだろう。

 俺は徐々に毒餌の値段を上げた。


 俺の真似をして毒餌と松明たいまつを用意した奴はいたが、卑劣な工作抜きの物はモンスターに相手にされない。

 まあそうだよな。

 鳥のモンスターだって嗅覚はある。

 トレントだって耐える考えはあるだろう。


 この階層のメンテナンスは冒険者に任せれば良いな。

 俺は毒餌と松明たいまつを供給する事で暴利をむさぼった。

 冒険者は木の伐採でホクホクだ。


 ボスへの道も出来た。

 こんな美味しい階層はないな。


 3階層ボスの扉を潜った。

 ボスはエルダートレントだった。


「気をつけろ。こいつはトレントを召喚する」


 エルダートレントが蔦を振ると、トレント3体が召喚された。

 3体のトレントとエルダートレントがトゲの付いた蔦を振り回す。

 まるで暴風だ。


「【聖剣】」


 ベロニカの剣にオーラが纏わりついた。


「【斬撃】【斬撃】【斬撃】」


 ベロニカが剣を振るうたびに蔦が切り払われていく。


「下がって。上級火災旋風」


 ダリアの魔法で炎の竜巻が発生。

 トレントを巻き込んでいく。

 トレントの蔦は全て焼き払われた。


「【絶対貫通】【絶対貫通】【絶対貫通】」


 アザミが投げナイフでトレントの魔石を貫いていく。

 残すはエルダートレントのみとなった。


 俺はエルダートレントに駆け寄ると、木の肌をくすぐった。

 エルダートレントは召喚を試みて失敗。


「上級火属性付与魔法」


 ダリアがベロニカの剣に炎を付与した。

 ベロニカの剣は白いオーラと白い炎に包まれた。


「【斬撃】」


 ベロニカの一撃で、エルダートレントは切断された。


「止めをさせなかった」


 アザミがしょげる。


「お父さん、私が一番活躍したよね」

「私のサポートあってこそよ」

「師匠は影の功労者。召喚阻止は見事だった」

「そうよね。あれが無かったら、私の最後の一撃はなかった」

「師匠が凄いのは当たり前です」


「みんな良くやったぞ。お疲れ」


 うん、宝箱が出ているな。


「アザミ、鍵開け頼めるか」

「うん」


 アザミが針金と工具を使い宝箱を開ける。

 どうやら解除できたようだ。

 出て来たのは杖だった。


「上級物品鑑定魔法。エルダートレントの杖みたいね。今使っている杖より性能は劣るわ」

「3階層だからな。そんな良い物は出ないさ」

「プロテアちゃんへのお土産にしましょ」


 領主に媚びを売っておいても良いだろう。

 さて、トップは5階層を突破出来ただろうか。

 俺達はゆっくりで良い。

 情報があった方が攻略は容易いからな。


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