第22話 社会的抹殺

 アザミが冒険者ギルドで物書き台の影に隠れて誰かを見張っている。

 俺はその視線を追った。

 あいつは確かルーポーとか言ったな。


「どうした?」


 アザミのそばにゆっくり歩いていって、壁の掲示物を見るふりをして尋ねた。


「任務中」

「なんの任務だ」

「社会的抹殺」


 面白そうだ。

 俺も混ぜろ。


「やさは分かっているのか」

「ええ」


「じゃあ、情報屋を呼び出すか」


 俺は前に助けてやったカルセを呼び出した。


「ルーポーの情報を寄越せ」

「あれが耳に入ったんですか。地獄耳ですね」

「あれって何だ」

「ルーポーがあなたの悪口を言っているあれですよ」


 酒場で聞いた俺の根の葉もない噂はルーポーが火元か。

 アザミはそれを知ってたんだな。

 それで社会的に抹殺か。


「ああそれだ。舐められるとろくな事がないからな」

「ルーポーは幼馴染がいるようです。恋仲ではありませんが。幼馴染はパン屋に勤めています。実家は少し離れた所の村ですね。ベロニカさんが好きなようです」


「アザミの作戦は?」

「女物の下着に幻影魔法を掛けてポーション瓶に見せかける」

「冒険者がそんなの目撃しても大して驚かないだろう。見せかけるのは財布にしろ。幼馴染のパン屋に買いに行く途中ですり替えるんだ」

「それ良い」


「男が書いた恋文を一つちょろまかして、女の名前をルーポーに書き換えるんだ。それを配達依頼でルーポーに届ける。封筒は女が書いたように装うんだ」

「うん」


 アザミが配達依頼の手紙を掏り盗り、中身を検め、使えそうなのを選び出した。

 手紙を改ざん。

 それをピンクの封筒に入れ準備は整った。


 ルーポーがパンを買いに行く。

 女物の下着に幻影魔法を掛けて財布とすり換えた。

 パン屋の外でそっと見守る。

 お勘定をルーポーが払おうとすると財布でなくてパンティが出て来た。


 幼馴染にビンタされるルーポー。

 幼馴染に惚れられているのか。

 しょげた様子でルーポーは冒険者ギルドに行った。

 仲間と待ち合わせらしい。


 手紙の配達依頼で駆け出し冒険者がルーポーに手紙を届けた。

 囃し立てる仲間。

 ルーポーが手紙を開くと、予想通りの事が起こった。

 仲間に遠巻きにされるルーポー。


 俺は同性愛について思う所はない。

 本人が好きなら、周りに迷惑にならない限りご自由にどうぞだ。

 だが、異世界では敬遠されるみたいだな。


 ルーポーは仲間から追放されるみたいだ。

 ひょっとしてこれでルーポーが覚醒したりしないよな。

 まさかな。


「お前の仕業だな」


 ルーポーが酒場でくつろいでいる俺に詰め寄った。


「何の事かな。男と幸せにな。応援しているよ」


 俺は惚けた。


「やっぱり、お前だ。決闘だ」


 受けてやらないといけないようだ。


「何を賭ける? 俺はそうだな、ベロニカを賭ける。お前はパン屋の幼馴染を賭けろ」

「良いぜ。やってやる」


 修練場でルーポーと対峙する。


「じゃあ始めるか」

「前と一緒だと思うなよ。斬撃スキルを獲得したからな。【斬撃】」


 ルーポーが打ち込んできた。

 俺はそれを何とか受け流した。

 ルーポーはたたらを踏んだ。


「こっちの番だ」


 ルーポーの手首を思いっきり剣の腹で叩いた。

 ルーポーは剣を落とす。

 俺は剣の腹で滅多打ちにした。


 やっぱり覚醒はしなかったか。

 追放系の主人公だと覚醒しそうなんだがな。


 なぜか俺の前にルーポーの幼馴染が割り込んだ。


「やめて」

「興が削がれた。ルーポーよ、ベロニカは諦めろ。こんな可愛い彼女がいるじゃないか。それとも何か。彼女を差し出すか」

「ちくしょう。あきらめます」


「示談金、金貨1枚な」

「私が払います」

「お嬢さん、こいつが落とし前つけなきゃならないんだ。こいつが始めた喧嘩だからな」


 でなきゃこいつが反省しない。


「分かった払う」

「よし、借用書を書いてもらうからな。払えなかったら借金奴隷だ」

「くそっ」

「お前な。英雄の素質ゼロだわ。ベロニカのどんな所に憧れた?」

「強くて凛々しいところ」

「馬鹿だな。偶像を見やがって。か弱い一人の女だってなんで分からない」

「そんな」

「思えないってのか。それが駄目だ。英雄の資格なしだ」


 ルーポーはこれが分からなければ、ベロニカを愛する資格はない。

 幼馴染は俺の言った事が分かったみたいだ。

 ルーポーを叱っている。

 主人公体質だと思うんだがな。

 追放されて、幼馴染に惚れられても、主人公になれないのか。

 不思議だな。

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