第21話 酒場の噂
2階層のボスはビックウルフだった。
でかい硬い速いという以外は大した事のない敵だ。
キシリ草の毒餌で弱ったところをぐさり。
実にあっけない。
2階層だから、こんなものだよな。
「さあ、帰るぞ」
夕暮れ近いギルドの酒場は、依頼が終わって一杯やろうという冒険者で溢れていた。
席がないな。
「おら、席を空けろ」
俺は駆け出しを卒業した冒険者の襟首を掴むと椅子から引きずり下ろした。
「何しやがる」
「偉くなったもんだな」
「げっ、ムスカリ教官」
「席を空けろ」
「はい、ただいま」
冒険者が料理と酒を手に持って厨房に入って行った。
「ちょっと可哀想」
とベロニカ。
「奴なら心配ない。厨房で飲み食いしているはずだ。あんなでも一人前の冒険者だからな。転んでもただでは起きないさ」
俺は周囲の声に耳を澄ませた。
「いま、トップは5階層の砂漠で行き詰っているらしい」
「流砂のトラップは厄介だな」
「何人も呑まれたらしい」
5階層は砂漠か。
俺の手札で対抗できるものはないな。
何か考えないと。
「お前らはどこまで行った」
「3階層だな。普通の森だが。樹とトレントの区別がつかなくて手間取っている」
「鳥も厄介なんだってな」
「ウィンドバードか。風で羽を飛ばして来るが。盾で防げる」
「なるほどな。3階層は盾職が必須か」
「トレントの蔦の鞭も盾がないと防げないしな」
盾職か。
鳥は毒餌でなんとかなるだろう。
トレントが厄介だな。
ベロニカとアザミに前衛をやってもらうとつけ上がるし。
ダリアに魔法で焼き払わせるのもな。
冒険者を多数巻き込んで、焼き殺す結果になりそうだ。
恨みを買うのを恐れちゃいないが、ギルドを首になるのは困る。
俺が威張ってられるのもギルドの後ろ盾があってこそだ。
「4階層はどうなんだ」
「聞いた話では、荒れ地で、でかい亀と骸骨騎士が相手らしい」
「それはまた手ごわそうだ」
「魔法で強引にというのが無難らしい」
「それは良い情報を聞いた。魔法使いがいれば、稼げるな」
「まあな。骸骨騎士は矢も撃ってくるらしい。魔法使いは優先して狙われるそうだ」
別のテーブルの話を聞く。
「勇者パーティに入りたいぜ」
「おう、そうだな」
「ムスカリの野郎は気にくわない。ヒモらしいぜ。3人に養ってもらっているらしい。裏じゃいかがわしい店とか経営してるとか。犯罪組織の手先という噂もある」
本人がいるのにでかい声でよく喋れるな。
もしかして挑発してるのか。
「ちょっと」
ウェイトレスを呼んでエールを二つ頼む。
持って来たところで。
「隣のテーブルにファンだと言って差し入れてくれ」
俺はそう言いながら下剤をエールに入れた。
俺はトイレの扉の前に立って、故障中の張り紙を張った。
これで良い。
「なんか腹がゴロゴロ言いやがる」
「俺もだ」
男達はトイレに駆け付けて絶句したようだ。
内股になりながらギルドの酒場から出ていく。
ざまぁ。
悪口を言われようが大して気にはしてない。
してないが、そのままにしておくのも癪に障る。
ところで、いかがわしい店ってなんだよ。
どこから出た噂だ。
そんな店に出入りした記憶はない。
犯罪組織の手先もそうだ。
犯罪組織は襲ったが現場は見られてないはずだ。
変な噂だな。
「師匠、難しい顔してる」
アザミが心配そうにそう言った。
「お前達は悪評と無縁で良かったな」
「あるわよ」
「ええ、あるある」
「ある」
「そうなのかSランクも大変だな」
「私のやばそうなのは教会がもみ消した」
教会も大変だな。
待てよ。
教会には洗脳する専門の人間がいるとか。
それに暗殺者も抱えていると聞いている。
まさかな。
「私はお話合いしたわ。魔法言語でね」
魔法言語って事は魔法で脅したな。
ベロニカに比べたら温厚なような気がする。
「抹殺」
物騒だな。
「アザミは殺さないんじゃなかったのか」
「社会的に抹殺」
うん、アザミらしい。
社会的に抹殺って何をするのか、聞きたい様な、聞きたくない様な。
俺は卑劣な工作で対抗か。
悪行ポイントも溜まったようだし、これはこれで良いかもな。
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