第19話 慈善活動

 1階層の攻略は終えているので、しばらくは休みだ。

 それに、昨日は徹夜だったので、ゆっくりしたい。

 昼間、寝てしまうと昼夜逆転するので、街に出る事にした。

 ベロニカを街で見かけたところ、物乞いに拝まれている。

 さすがベロニカ、物乞いにも人気とはな。


 俺は気づかれないようにベロニカの後をつけた。

 ベロニカは古い老朽化した建物に入っていった。

 俺も中に入る。

 中は浮浪児らしき子供と物乞いで溢れていた。


「師匠、後をつけたのですか」


 耳元でベロニカに言われゾッとした。


「気になったんでな。ここは何だとは聞かない。ベロニカが彼らの面倒を見ているんだな」

「ええ、有名税の一つよ。慈善活動しておくと役に立つ事があるから」

「他人の事ながら、誇らしいよ」


「そんなんじゃないわ。打算よ、打算」

「良い事はやるべきだ。俺は柄じゃないからしないけどな」


「はっきり言って勇者の二つ名は要らないわ」

「あれって教会が認定するんだよな」

「ええ、聖剣スキルを持った人間を勝手に審査して、勇者の名前を押し付けてくるわ」

「大変だな」


「まあね。モンスターは人類の敵だと、討伐をせっついてくるし。勝手に名前を押し付けたのに、寄付を寄越せと言ってくるわ」

「教会も酷いな」

「特権も一応あるの。教会での治療は無料だし。罪を犯しても免罪符を発行するし。ただ、やりすぎると勇者の名前をはく奪されるわ」

「俺なら、適当に犯罪を犯して勇者を辞めているな」

「それが難しいのよ。名前をはく奪されたら、敵が一斉に襲い掛かってくるらしいわ。はく奪された勇者はみんな非業の死を遂げている」

「うわ、溺れた犬を叩く所業だな。まあ気にくわない奴だったら、俺も叩く側だけど」


「げっ」


 俺から金品を巻き上げられた事のある物乞いが、俺の顔を見て逃げてった。

 ここに俺がいると彼らがくつろげないな。

 物乞いや浮浪児はどうでもいいが、ベロニカの顔は立てないと。


「じゃあ行くよ」

「ちょっと待って」


 何となく既視感。

 まだ宿屋で鬼ごっこは嫌だ。


「どうした。誰かに求婚でもされたか?」

「違うわ。物乞いと浮浪児を、ムスカリ親衛隊の下部組織にしようと思うの」

「ああ、それは良いな。サクラが必要な時とか、情報を操作する時とかに役に立つな。ただ飯食わしているだけじゃ勿体ない」


「名前、どうしよう?」

「ベロニカ後援会とでもしておけ」

「ムスカリ後援会じゃ駄目?」

「だめだな。それはだな。俺も支援したいからだ。だが、俺の名前は出すなよ。物乞いへのカツアゲは辞めないからな。マッチポンプが分かると舐められる」

「分かった。ベロニカ後援会タムラ支部にしておく」


 賄賂や犯罪組織の金が腐るほどある。

 どうせならこういう所に使おう。


「とりあえず金貨10枚だ。これだけあればこいつらもたんまり食えるだろう。後で気兼ねなく金を巻き上げられるってもんだ」


 俺は金貨が入った小袋をベロニカに投げた。


「悪なのか、善なのか、ちょっと分からない」

「俺は小悪党だよ。物語の序盤で主人公にやられるような」

「それにしては、いろいろな所で強奪しているわね」

「小悪党が進化してトリックスターかな」

「そうね。そんな役割かも。でもトリックスターって大抵は有能よね」

「役職なんかつかないのがトリックスターだ」


「教官はどうなの?」

「あれは表の顔だな」

「なるほどね」


 俺はそばにあった物乞いの真鍮しんちゅうの皿を叩いて大きな音を出した。


「ベロニカ様が、ご馳走を奢ってくれるぞ!!」


 部屋から物乞いと浮浪児が、何事かと顔を出した。

 物乞いの幾人かは俺の顔を見ると顔をしかめた。

 浮浪児はご馳走と聞いて、よだれを垂らさんばかりだ。


 ベロニカが浮浪児に金を渡す。

 食べ物を買いに行かせたようだ。

 一人だけではなく、金を小分けにして幾人にも渡す。

 一人に大金を渡すと逃げてしまうからだろう。


 しばらくして、沢山の食べ物を持って浮浪児達が帰還した。

 さっきより数が減っている。


「お金を渡すと何人かはいなくなってしまうのよ。でも気にしないわ。自分で責任をもって生きているに違いないから」

「そうだな。生き方は強制されるものじゃない」


 羨ましそうなベロニカの顔。

 ベロニカは自由に見えてかごの鳥なんだな。

 解き放ってやりたいが、小悪党の役目じゃない気がする。


 浮浪児達と一緒に飯を食う。

 物乞い達は全員に俺の事が伝わったのか、誰も寄って来ない。


 まあ、人間は何かしらのしがらみに囚われているものだ。

 俺は踏み台を卒業する日が来るんだろうか。

 今の生活も悪くない気がする。

 たまに踏み台にされたりするのが、俺にはお似合いだ。

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