第18話 お持ち帰り

 トラブルはあったものの、何とか一日で1階層のボスに辿り着く事が出来た。

 ボスの所には扉がある。

 中に入るとボスを倒すまでは逃げられない。

 死亡率が高いのがボスの部屋だ。


「行くか」


 3人が無言で頷く。

 俺は扉を押した。

 軋む様子もなく両扉は開いた。

 俺達が中に入ると自動的に扉が閉まる。


 魔法の光が現れて、モンスターが召喚される。

 スケルトンメイジのようだ。


「【聖剣】、てやっ」


 ベロニカの一撃でスケルトンメイジはあっけなく倒れた。

 まあ、ボスと言っても1階層だからな。

 部屋を出ると、光の輪のポータルと階段があった。

 ポータルに入ると地上まで出られる。

 階段を下りると2階層だ。


「今日はここまでにしておこう」

「そうね」


 3人とも賛成のようだ。

 ポータルをくぐると出口だった。

 ポータルは俺達が立ち去らないと消えない。

 次に来た時はまたポータルが現れる。

 2階層から続けられる仕組みだ。

 一説によるとダンジョンはより強いモンスターと戦わせて殺したいらしい。

 俺だったら消耗戦をするけど、せっかちな性格のようだ。


 死骸を分解するのもせっかちだな。

 俺だったら死骸から発生する病気で殺すけどな。


「ちょっといいですか」


 宿に帰ろうとするダリアが俺を呼び止めた。


「何だ?」

「パンサスという方から求婚されました」

「あの野郎。許さん」


 ボコボコにしたいが盾撃スキルがあるからな。

 仕方ない。

 卑劣な工作発動だな。

 下剤はすぐに対処されそうだから、痒くなる果物の汁だな。

 痒いのは魔法でも治らない。


 俺は竹で作った水鉄砲を構えてパンサスを待った。

 奴が現れたので果実の汁を発射。

 見事股間に掛かった。


「いくら師匠でもこれは許せません」

「お前なんか破門だ」

「なら遠慮は要らないな。掛かって来い」


「捕まえられるものなら、捕まえてみな」


 俺はお尻を叩いてあっかんべーをした。

 そして、一目散に逃げる。

 パンサスは追いかけて来たが、すぐに悶絶した。

 かきむしりたくて我慢が出来ないようだ。

 ところがダリアがいるために出来ない。


「ダリア求婚の答えを言ってやれ」

「インキン持ちの方とは付き合えません」


 さも嫌そうにいうダリア。


「これは違う。君もさっき見ただろう。液体を掛けられたんだ」

「ダリア、行くぞ」

「はい」


 俺はダリアの肩を抱いて一緒に歩き始めた。

 パンサスの歯ぎしりが聞こえる。


「くそう! 殺してやる! 【盾撃】」

「中級防御魔法」


 ダリアが魔法を唱える。

 風を感じて振り返ると、魔法の光で出来た盾と、何かがぶつかって衝撃音が鳴り響いた。

 空気の塊を盾撃で飛ばしたのだろう。

 中々やるな。

 俺一人だと危なかったかも知れない。


「逃げるぞ」


 俺はダリアと手を繋いで宿まで逃げた。


「私、お持ち帰りされてしまったのですね」


 困った。

 帰れと言って帰ってくれるだろうか。


「明日は早い。良く休めよ」


 そう言ってから、俺は宿の部屋に入った。

 そして、窓から出て隣の部屋へ。

 俺は何時も二つ部屋を借りる事にしている。

 悪事を働いていて、お礼参りがあるからだ。


 殺し屋が来た事も一度ではない。

 コップを壁に当てて、隣の部屋の音を聞く。


 しばらくして、隣の部屋に誰か入ってきた。


「いない。逃げられた」


 ダリアの声だ。

 乱暴にドアが閉められる音。


 ダリアの気配がドアの前にある気がする。

 俺は窓から出で隣に移った。


 コップを使い隣の部屋の音を聞く。


「師匠の気配がこの部屋からしたような。気のせいかしら」


 ふぅ、危機一髪だ。

 窓の外に設置した隣に渡る為のロープを見られたら一巻の終わりだ。

 念には念を。


「初級念動魔法」


 ロープが外された。


「何か仕掛けがあった気がしたのだけど」


 窓の下からダリアの声が聞こえる。

 やばかった。

 冷や冷やものだ。


 この宿はだめだ。

 違う宿に変えよう。

 いや、俺なら宿の入口を見張る。


 ダリアもそうする気がする。

 今、動くのは危険だ。

 草食動物の子供が肉食獣に怯えて、隠れている場所から動くと、大抵は食われてしまう。

 ここは我慢だ。


 結局、一睡もできなかった。

 次は違う手を考えないと。

 また同じような事があると危険だ。

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